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前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~ 「ん………ふわぁぁ」 朝が来た。 記憶を失った大十字九朔、初めての異世界での朝である。 「てけり・り」 「ん? ああ、良い朝だなランドルフ」 「てけり・り!」 枕部分から伸びる目玉も、朝の日差しの明るさに嬉しそうにそのスライムっぽい赤色を 小刻みに震えさせている。 はてさて、昨日あったばかりだというのにこうも親愛の情を深めることができる自分は 一体何者なのか? 「考えたところで何も分からぬのでは、どうしようもないわな?」 「てけり・り」 うんうんとうなずく触手。気が合う、無駄に気が合う。腕と触手を組み、ガッツポーズ。 「ま、冗談はさておき」 ランドルフの変形したベッドから下りると九朔は己を召喚した張本人かつ、記憶喪失の鍵を 握るであろう少女のベッドに向かう。 「すぅ………」 未だ眠るルイズ、その寝顔は昨日の口調から想像できぬほど愛くるしい。 正直なところ、こんな娘が自分たちを召喚したとは思えない。 それなのに『招喚』の事実を受け入れてしまっているのは記憶から抜け落ちた『招喚』の 記述が彼に影響を及ぼしているからか。 「てけり・り」 「ん? ああ、そういえば洗濯物を持っていけとか言われてたな」 「てけり・り」 既にベッドから変形済みのランドルフ、丸のような四角のようなそれとも球のような…… とにかくよく分からない不定形に戻った彼は頭の上と思われる部分に洗濯籠を乗っけて ぷにぷにと跳ねていた。 「世話になる身だ、一緒に行くとしよう」 ルイズを起こさぬように部屋を退出する一人と一匹(?)、そのまま洗濯場であるという 場所へ直行しようとしたのだが、 「ふむ」 「てけり・り」 「ううむ……」 「てけり・り………」 「ん………」 「てけぇりぃ~……」 迷った。 なにぶん初めての場所である、ルイズからの口伝えだけで洗濯場が分かる訳がなかったのだ。 部屋に帰ろうにもさてどっちから来たか思い出せず右往左往、分からないならば進むのみと 闇雲に行けば右往左往、気づけば中庭らしき場所で立ち尽くすことになる二名であった。 「困ったな」 「てけり・り」 天を仰ぎ唸る一人と一匹。 さて、どうしたものか。 悩む二名はどかりと地面に座り、顔と目玉をつき合わせて腕と触手をああだこうだと 手振り身振り交えて相談する。 はたから見れば実に背徳的な光景、メイジではないっぽい平民の少年と使い魔というには なんかスライムっぽい何かが触手をうねうねと蠕動させて話し(?)合っているのである。 なんか、こう官能的。 ついでに背徳的で冷蔵庫に網掛けが必要な感じ。 燃えるというよりひんやりする。 普通なら話しかけない。 できれば、避ける。 お付き合いはお断りしたい。 が、そんなのは誰かが見ていたらという前提あってのこと。 こんな朝早く、日の昇ったばかりでは人も居ない。 ついでにそんな眼で見るような人間も居ない。 つまり、彼等を最初に見る人間には偏見の持ちようがない というわけで、 「あのぉ……どうかなされましたか?」 彼女、シエスタは声をかけたのであった。 「うむ?」 「てけり・り?」 同時振向く一人と不定形。 そこには彼等の知識にあるメイドというにはやたら露出のないメイド服を着込んだ黒髪の少女。 ここに来て九朔とランドルフが見た二人目の人間であった。 「ああ、実は洗濯場がどこか分からぬのでな。話し合っていた」 「てけり・り」 「は、話し合って………ですか?」 初めて見る少年と触手をうねらせて何か意味不明の言葉で会話を試みている不定形。 恐らく使い魔だと思うので多分それと会話をする彼はメイジかと思ったら マントは羽織っているが杖は持っていない。 ということは、である。 「も、もしかして……あなたが噂のミス・ヴァリエールが召喚した使い魔さんですか?」 「使い魔かどうかと言われたら断固否定したいところだが……まあ、そうだ」 「てけり・り」 肩をすくめる九朔、それにならうように頭と思われる部分を波打たせるランドルフ。 「ふふ。そんなこと言ったらミス・ヴァリエールに怒られちゃいますよ? あ、そちらのぷにぷにした方も使い魔さんなんですか?」 「いや、彼も我と一緒に来たようだが違うみたいだ」 「そうなんですか。でも、可愛いですね」 くすりと微笑むシエスタ、ショゴス相手でもまったく動じないあたり、この世界の人間は どうやらなかなかに良い胆力をお持ちのようである。 「えっと、ではご挨拶ですね。私、ここでメイドとして奉公させて頂いていますシエスタと もうします。どうぞ、よろしくお願いしますね」 恭しくお辞儀するシエスタ。 「我は大十字九朔、そして彼はランドルフだ」 それに倣い九朔も深々と頭を垂れ、ランドルフも目玉がある触手をほぼ180度縦に曲げる。 一応お辞儀のつもりのようだった。 「はい、よろしくお願いします。えっと、洗濯場をお探しとの事でしたよね? 私もこれから行くところでしたのでどうぞご一緒に」 手招きするシエスタに連れられ洗濯場へ向かう二人。 案内されたのは旧い造りの洗濯場、手洗いとは実に古風である。 「では、ミス・ヴァリエールのお洗濯物はこちらでお預かりしますので終わったら また取りに来てくださいね」 ランドルフから洗濯籠を受け取り、そのまま洗濯場へと引っ込もうとするシエスタの後姿を 見つめる九朔。あのような少女に洗濯やら何やらを押し付けるのは何だか心苦しい。 「シエスタ」 「はい?」 そんな彼女に九朔は声をかけてしまう。 振向いたシエスタの表情には辛そうなものなどこれっぽちもありはしないのだが、何だか このままでは宜しくないのだ。 そういうわけで、結局というか父親譲りのお人よしの血というか、 「我も手伝おう。男手があった方が早く終わるであろう?」 こんな申し出をしてしまう九朔。 「そそそ、そんな! ミス・ヴァリエールの使い魔さんにそんな事していただくなんて!」 わたわたと驚いて首をブンブン振るシエスタ。 「いや、構わぬさ。我は記憶を失っておるのでな、こうやって体を動かすなり何なりして おれば何か思い出すかも知れぬ」 「てけり・り!」 向かい合う九朔とシエスタの間に入り込む目玉。 「ランドルフ、汝も手伝うのか?」 「てけ~り。てけり・り、てけり・り!」 「ほう。汝、そのようなマネも出来るのか?」 「てけり・り!」 「え? え?」 自分を無視して訳の分からぬ会話を始める一人と一不定形に戸惑うシエスタ。 「てけり・り。てけーり・り! てけ~り!」 「あはは! それはすごい!」 「あ、あのクザクさん?一体何を……」 「ん? ああ、なに。ランドルフが中々におもしろい特技を持っていたのでな。 それについて話しておったのだ」 「おもしろい特技?」 「ああ、これだ」 指差す先で変形するランドルフ、スライムっぽいそれが固形状に変化して四角い箱になる。 「箱……ですか?」 「ただの箱ではない。……よし、我も手伝うぞランドルフ」 そう言うと、近くの水場から組み上げた水をどんどんランドルフの中に流し込んでいく九朔。 皆目検討つかないその行動に疑問符をどんどん浮かべていくシエスタ。 「あ、あの……クザクさん?」 「済まぬな、もう少し待っていてくれ」 「あ……はい」 目の前で行なわれる奇妙な儀式を見守るしかないシエスタ。いつしか集まっていたほかの メイド達もそれに注目する。 そうしているうちになみなみと満たされた箱型ランドルフの中、九朔は近くにあった洗濯を どばどば放り込んでいった。 そして、 「では、ランドルフ……仕れ!」 パチンと指が鳴らされた次の瞬間、 「てぇぇぇぇけぇぇぇぇりぃぃぃぃぃぃぃりいいいぃぃぃぃぃ!!!!」 なんとランドルフが激しく蠕動し始めた。 蠕動は中に溜められた水にまで伝わり、ぐるぐると回転を始める。洗濯物はグルグル回転し、 ついでにランドルフも激しく蠕動。 逆回転も加わり螺旋の動きもばっちり、揉み洗いでもなんでもござれである。 蠕動と回転が組み合わさればこれすなわち汚れ落としもばっちりである。 「おおおおお!!!」 見る間に洗濯物の汚れが落ちていくさまに寄ってきたメイド達からも歓声があがる。 これぞいわゆるショゴス製洗濯機、いろんなものに奉仕している種族なのである、これくらい できて当たり前だろう……多分。 「す、すごいですランドルフさん! こんな洗濯法初めてです!」 「てけり・り」 なぁにこれくらい朝飯前よ、と身体を蠕動させつつ自慢するように触手を振るわせる ランドルフとがっちり握手するシエスタ。 不定形スライムと少女の親交、実に微笑ましい光景である。 他意などありやしない。 洗濯物はその間にも放り込まれてはピッカピカされ、放り込まれては漂白され、放り込まれて は染みも落とされ、そんなそんなの繰り返し。 九朔もそのできあがった厖大な量の洗濯物を両腕に抱えて干していく。 気づけば本日分の洗濯は完全無敵に完成、終了。素晴らしい。 「ふむ、思った以上だな?」 「てけり・り!」 洗濯場の前にずらりと並んだ厖大な量の洗濯物を見て感慨深く呟く一人と一不定形。 メイド達からいたく感謝されたのもあって実に爽快な気分である。 「洗濯の手伝いもやってみるものだな」 「てけり・り」 お互いに得心してうなずく。だがしかし、何か忘れているような気がする。 大事だったような、そうでもなかったような。 「何だと思う?」 「てけり・り?」 さあ?と触手をうねらせる不定形。 もう少し頭をひねってみる。 と、目の前を通り過ぎていくルイズと同じ格好の少年少女たち。 「ああ」 思い出してパンと手を打つ。 ルイズを起こすのを忘れていた。 が、 「まあ、一人で起きることくらいできよう。何も問題あるまい」 「てけり・り」 うんうんとうなずく九朔とランドルフ。結構冷たい奴等であった。 そのままのほほんと朝の陽の光を浴び続ける一名と一不定形。シエスタを始めとした メイド達は朝食の用意があるといって既になく、朝食の香りが何処からか漂ってきている だけである。 「そういえば、昨日から何も食べておらぬな」 「てけり・り」 すきっ腹がきゅんと鳴る。 はぁ、と溜息をつく九朔とランドルフ、そんな一名と一不定形に駆け寄る殺意の篭った足音。 空腹のせいで警戒心の緩んでいた九朔はそれにゆっくりと振向く。 そして次の瞬間、 「ぐほぁぁぁあああっ!!」 ルイズの両足ぞろえのとび蹴りが、美事に顔面にクリーンヒットした。 本来の九朔であったら喰らうはずのないそれに、女性っぽい中性的なキレイな顔が見事 フッ飛ぶ。 空中二回転して地面とキス、どこぞのスナイパーもびっくりである。 「おお……うぐぉ………んぐぅぅ………」 顔面へのダメージに悶絶する九朔。 おかしい、こういう役回りは自分ではない、何故か分からないが走馬灯のように緑の ■■■■っぽい誰かが頭に浮かんだ。 「良くも起こさなかったわね? 良くも良くも起こさなかったわね? 起こせって言ったのに 起こさなかったせいでもう少しで私、寝坊して朝ごはん食べ損なうところだったわ……」 静かな怒りがルイズの周りで渦巻いていた。 ズンと、大地を踏みしめる。 「キュルケにも思い切りバカにされたわ。『貴女ったら使い魔が平民なだけじゃなくて ちゃんと使役もできてないの?』って思い切り見下ろして言われたの。 分かる? ねえ、分かる? バカにされて悔しい私の気持ち?」 人間を、しかも平民を召喚したという事実が今更になってルイズに怒りをもたらしている ようであった。 「て、てけり・りぃ………」 その鬼気迫る、大気震わす怒りにランドルフは身を恐怖で震わせた。 何かトラウマ的なものが幻視できた。 「でも、良いわ。今回はこれだけで許してあげる。でも次やったら今度はもっと 酷いんだから………わかった?」 「て、てけり・り!」 ぎろりと、ランドルフを睨みつけるルイズ。 逆らってはいけない、決して逆らってはいけないと彼は理解する。 脳内で主役とは思えぬ邪悪な笑い声をあげる少女の声が響いたのは恐らく幻聴では あるまい。きっと、彼女はそれと同種のものを持っている。 「行くわよぷにぷに」 「てけり・り!」 彼女は本来の主ではない。 だが、彼はそれに従う。 ショゴスも恐怖によって平伏するするのである。 悶絶する九朔をランドルフに引きずらせ、ルイズは教室へ向かう。 無論九朔もランドルフも朝食を食べる事まかりならなかった。 嗚呼、無残、無残。 前ページ次ページゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~
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そこは薄汚い店だった。 壁や棚の至る所に武具が乱雑に並べられていて埃臭い。 ドアの音に気付いたのか、店の奥から出てきた主人は胡散臭げにルイズとギーシュとペットショップを見つめる。 何も言わずにパイプをプカプカと吸っていたオヤジだが。 ルイズとギーシュの紐タイに描かれた貴族の印に気づくと、途端に笑顔になった 「これはこれは、貴族の旦那様方がこんな所まで一体何の御用で?」 「ナイフを買いに来たんだけど」 顔を見ずに告げるルイズに少しムッとする親父。 だがすぐに気を取り直すと、営業用スマイルを浮かべながら店の奥に引っ込む。 何で貴族が武器なんて買いに来るんだ?誰が使うんだ?と言う疑問は親父の頭には無い 今、考えている事はどうやって金貨一枚でも多く分捕ってやるか。それだけである。商売人の鏡だ。 (絶~っ対にボッタくってやんぜ~!) と、親父が意気込んで数十秒が経った後、立派なナイフを店の奥から持ってきた。 柄や鞘には眩い宝石がちりばめられ、刀身の艶やかさ、柄拵えの流麗さは、芸術的な作品と呼べるだろう。 それはそれは見事なナイフであったそうな。 「店一番の業「これで良いわ」 喜色満面で口上を述べようとしている親父を手で制し、ルイズがその手に持ってきたのは店の棚にダース単位で置いてある二束三文の安物ナイフであった。 親父は焦った。何処にでもある大量生産品のナイフでは、幾ら世間知らずの貴族が相手だと言えども値段を誤魔化す事ができない。 しかし、折角の上客を逃すわけにはいかない、長年の商売で鍛えた舌を全力で回しながら口上を述べる。 「貴族の旦那様!これは、かの高名なゲルマニアの錬金魔術師ナンチャラカンチャラ卿の「おいくら?」 親父の言葉を半分も聞いていないルイズが途中で遮る。 だが、親父は諦めない。少しでも可能性がある限り、男は度胸!何でも試してみるものさであった。 「魔法がかかってるから鉄だって一刀「おいくら?」 取り付く島も無いルイズ。 半分諦めながらも微かな希望に掛けて親父は喋り続ける。 「今なら大特価!エキュー金貨で千七「おいくら?」 親父は机の上に沈んだ。完全な敗北である。 それに関わらず、ルイズは手元のナイフを弄繰り回していた。 夢で出て来た男が投げたナイフに最も近い形であり、持ってるだけで夢の中の男を思い出してルイズは何故か安心した。 味も確かめようとして、レロレロと舐めてみている。 「プッ・・・・ハハハハ!ザマーねーな親父ィ!」 突然、男のダミ声が店内に響き渡った。 少し驚いた二人と一羽が声の元を見てみるが、乱雑に剣が積み上げられているだけだ。 「うるせーぞデル公!」 半ギレした親父の負けず劣らずなダミ声がそれに応える。 親父の視線の先を見てみると、そこには一本の剣があった。錆びだらけでやたらとボロイ。 「世間知らずの貴族に売り込めないようじゃ守銭奴の名が泣くぜ!ガハハハハハ!」 どういうメルヘンやファンタジーなのだろうか、剣が喋っている。 「インテリジェンスソード?」 呆れたようなルイズの声に気付いたのか、剣がこっちを向く前に――――――親父の目がキュピーンと光った。 「そうですとも!貴族のお嬢様! こいつは確かに意思を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさ! 所々に錆びが浮いてますが、切れ味はそんじょそこらの安物には負けませんぜ! 声が煩いなら、そこの鞘に突っ込んどけば静かにさせられます! 今なら特別価格!新金貨百枚程でこのデルフリンガーをお譲りいたしますぜ」 厄介払いも兼ねる事ができるので割と必死であった、が。 それにしても、この親父ノリノリである。 「哀れな平民を助けると思って、デル公を買ってやってくれませんでしょうか!」 しかし、くだんのルイズは既に興味を無くしておりナイフの清算をすませると出入り口に向かおうとしている。 ルイズに縋り付こうとする親父、かなり喜劇である。 そんなルイズと親父が笑えない漫才をかましている一方で。 「こいつはオ・デレータ!まさか、『使い手』がこんな鳥公だとは!」 ペットショップを見たデルフリンガーが驚きの声をあげた。 剣はペットショップの左翼に刻まれたルーンを注視している。 「君の知り合い?」 ペットショップに乗っかられているギーシュが疑問の声を挙げるが。 話題の鳥公はガン無視!ルイズの動向を覗っているだけだ。 そんなペットショップを見ながら、云々と唸っているデルフリンガーだが。 「よっしゃ!このデルフリンガー様をいますぐ買え鳥公!損はさせねーぜッ!」 何やら一人(一本?)で自己完結した。 しかし、どう見たとしてもペットショップが金を持っているようには見えない。 瞬時の判断で、ペットショップの主人であるルイズに矛先を代えると、俺を買え!オーラを出しながら自分の売り込みを始める 「貴族のネーチャンよ~!俺を買ってくれねーか!?」 買え!買え!と猛攻を続ける親父とデルフリンガーに負けたのか。 やれやれ、と溜息を突いて財布を取り出すルイズ。 その姿に喜ぶ親父。だが、彼の災難はこれからが始まりだった。 「十枚」 ルイズの冷淡な声。その手には金貨が十枚乗っている。 「へ?冗談がキツ「十枚」 「・・・・・・分かりましたあっしも勉強させてもらいまして九十「十枚」 「そ、それじゃ。デル公の厄介払い込みで八十「十枚」 「七十・・・それ以上は負ける事が出ゲッッ!? ガツン! 珍妙な声を出しながら、頭を机にぶつける親父。 何時の間にか近寄っていたルイズが親父の頭を掴んで机に叩きつけたのが原因だ。 フガフガ言いながらも、親父は何とかルイズの手を振り払おうとしたが。 ドン! 「ヒィ!」 顔の直ぐ脇にナイフを突き立てられて強引に活動を停止させられた 「金貨十枚で売るか売らないか・・・・・・私が聞いてるのはそれだけなんだけど?」 豚を見る目付きで哀れな親父を見つめるルイズ。 「ルイズ様。僕が用立てておきましょうか?」 我関せずな態度だったギーシュが状況にそぐわぬニコヤカな声をかける。 が、 「あんたは黙ってなさい!さあ!売るの売らないの!?どっち!?」 ギーシュを見もせずに脅迫を続けるルイズ 駄目押しとばかりに親父の鼻先で杖を揺らしている。殆ど強盗である。 「わ、わ、わかりやした!金貨10枚でお譲りいたします!!!!」 貴族が杖を掲げた。その事実に親父は戦慄し、恐喝に屈した。 机に置かれた金貨十枚を半泣きで集める。 ルイズはナイフと財布を懐にしまうと、鞘に収めたデルフリンガーをギーシュに放り投げて渡し店を出る。 2人と1羽が店を出た後、親父は唾を吐き捨てて忌々しげに叫んだ。 「今日は厄日だクソ!」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1515.html
ルイズ達一行は盛大な宴の最中に居た ラ・ロシェールでの傭兵の奇襲、アルビオンへと向かう船上での空賊の襲撃を切り抜けたルイズ達は 王党派最後の拠点であるニューカッスル城にまで辿り着いていた (何かある度にディアボロが再召喚される羽目になったのは言うまでもない、だがお陰で誰一人欠ける事無くここまで来れていた) だが辿り着いた時にはすでにニューカッスル城は5万を数える貴族派の軍勢に包囲されており、 貴族派の宣言した総攻撃により落城そして王党派の滅亡は避けられ得ぬものとなっていた ゆえに王党派は勝利が得られぬのならば、華々しき敗北によって義務を果たし名誉を守らんとすべく決戦を挑もうとしていた 宴は死を覚悟した者達の別れの宴なのだ 「名誉ってそんなに大事なものなの? 愛しい人を残してまで死を選ぶことに価値があるの? 分からない、全然分からないわ」 ウェールズ王子の死の決意に翻意を促すも退けられ、気落ちしたルイズは傍らに立つディアボロに問い掛ける 「他国の侵略を防げなかった無能としてはそれしか縋る物が無かったということだ、意地もあるだろうがな」 「意地?それに侵略って、内乱の筈でしょ」 「己が犠牲になれば貴族派はトリステインに対して開戦する理由を得られない、 それが愛する女に出来る唯一の事だとでも考えているのだろう、無駄な事だ 物資の流れからして貴族派に外国が介入していることは明らかだ、その行動方針も含めてな」 ディアボロは今まで得た情報から導き出した推論を馬鹿にした態度で語る 「じゃあ殿下にそのことをお伝えすれば…」 「それこそ無駄だ、意固地になるだけだろう」 「どうしろっていうのよ!」 「普段私にしている様に命令して見れば如何だ」 「命令…、そうか国王陛下なら…」 ディアボロの皮肉から閃いたルイズはすでに部屋に下がったアルビオン国王ジェームズ一世に謁見すべくその場を駆け出した 国王の部屋を前にしてルイズは弾む息を抑えていた 首尾よく国王を説得出来たなら、ウェールズ王子の命を助ける事が出来る アルビオンの滅びを止める事は出来ないが、悲しみを一つ減らす事が出来る 私はその為に此処に来た その為の行いを止める事は困難から逃げる事を意味する、それは貴族である事の否定だ それだけは嫌だ 困難に立ち向かいけして逃げない者こそ貴族なのだから そう考えながら扉を叩こうとしたルイズを呼び止める声がした 「ルイズ」 ルイズが振り向いた先には婚約者がその姿を見せていた 「ワルド、どうしたの」 「明日この城の聖堂で結婚式を挙げよう 立会人はウェールズ王子にお願いしてある、快諾して頂いたよ なにそんな大仰なものじゃない、気持ちを確かめ合うといった程度のものだ 正式な結婚式はトリステインに戻ってから君の両親の前でやりたいからね」 それだけ言うとワルドはルイズの返事を待たずに与えられた部屋へ戻っていった ルイズはしばし呆然とワルドが歩いていった先を眺めていた 予告された総攻撃の刻限が迫る中、ニューカッスル城の聖堂には美しき花が咲いていた 花の名はルイズ、花嫁の衣装を身に着けたルイズは見る者にため息を突かせぬには居られぬ程美しかった 「まさかルイズに先を越されるとわね」 「綺麗」 「馬子にも衣装だな」 3人の参列者は当初王党派最後の船に乗り城を離れる筈だったが、タバサの風竜に乗れば良いという事でこの場に残っていた 式は結婚の宣誓まで進んでいた 立会人を務めるウェールズがワルドに尋ねる 「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド 汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とする事を誓いますか」 「誓います」 ワルドの返事を確かめ、続いてルイズに尋ねる 「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「殿下」 唐突にウェールズの言葉をルイズが遮った 「私はこれ以上この式が進む事を望みません」 「ルイズ、何を、何を言っているんだ?」 動揺を顕わにしたワルドがルイズに詰め寄る 「ワルド、貴方は今回の旅の目的を知っている筈よね、それに掛ける私の思いも でも貴方はそれを無視したわ、私の事を愛していると口で言いながら何か他の目的の為に動いているかの様に」 きっぱりとルイズが告げる 「だからワルド、私は貴方との結婚を望みません」 ルイズの言葉を受けたワルドはよろめく様に一歩下がる 「ルイズ、僕のルイズ、君がそんなことを言うなんて有り得ない、君は僕のものなんだ 君の力は、まだ眠っているだけの力は、誰よりも素晴らしいものなんだ、それは僕の為に」 「私の心も体も力も私の意志の下にあるわ、私が共に在りたいと願うのは私の意志と共に在ってくれる人 貴方の事をそうだと思っていたけれど違ったわ、貴方は自分の事しか考えていないもの、だから嫌、絶対に嫌」 決定的な拒絶を受けたワルドは顔を俯かせ低い声で呟いた 「そう確かに僕には僕の目的があった、君とは異なる3つの目的がね 一つ目は君だ、君の持つ力は何時か僕に必要になる筈だった 二つ目はアンリエッタ王女の手紙、レコン・キスタにとって絶好の材料だからね 三つ目は」 そこまで言うとワルドは杖を引き抜き閃光の二つ名に恥じぬ速度で呪文を唱えると後ろに立つウェールズに向かって突き刺した 「ウェールズ王太子の命!」 だが、 (手応えが無い!?) 杖はウェールズに突き刺さるどころか何も無い空間を虚しく灼いていた ウェールズの姿を求めて周囲を見回すと王子はルイズと共に凄まじい速さでワルドから離れていた (違う、二人が動いているのではない、これは自分が…) 自分の身に起きている事態を把握すべくワルドは自分の体が向かっている方向に顔を向けた すると参列者の席に座るルイズの使い魔の顔が見えた (イ、イカン、このままでは) ズッキュゥゥーーン! ■今回のボスの死因 ワルドのエアニードルに貫かれて死亡 ■おまけのワルド 花嫁と濃厚な間接☆キッス
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1931.html
遂に艦隊出撃し、どこか人が少なくなったような首都トリスタニアをお馴染みのローブで身を包み歩いているのは、ご存知…もとい久しぶりのフーケだ。 「はぁ…わたしもヤキが回ったかね」 そう呟いたのは、今頃部隊を率いてある場所に向かっているある男のせいだ。 フーケ自身は、裏の情報を生かしトリステインの内情を探るという事で別に動いていたが、正直乗り気ではない。 一応の義理はあっても義務は無いし、あの男を嫌悪しているというのが大きいだろうが、それでもやらなければ己の身が危ないのだ。 そろそろ、合流するかとして人通りの少なくなった通りを歩いていると、後ろから肩に手を置かれた。 ロングビル時代の習慣で蹴りが飛びそうになったが、目立つと不味いので耐える。 「悪いけど、わたしはあんたみたいなヤツは知らないよ。向こうへ行きな。蹴り殺すよ」 少なくともこんなヤツに肩に手をおかれる覚えは無い。 適当にあしらったつもりだったが、その手に力が篭る。 杖を引き抜き、追い散らそうかと思ったが、そうする前に相手が声を出したが…フーケの頭の中に絶望ォォォォだねッ!という妙な髪形の男の声が響いた。 「よォーーー会いたかったぜぇ~?フーケェ」 その声がフーケには地獄の門番の声に聞こえた程だ。 恐る恐る後ろを振り向きフードを被った相手の顔を見て、相手がそれを外した瞬間、息が止まる。 胃が痙攣し反吐を吐く一歩手前だ。 だが、それでも反吐の代わりに声を吐き出そうとするが巧くいかない。 「で、で、で、で、ででででで…」 「あ?何だよ」 「出たァーーーー!!」 「ルセーな。人を化物みたいに扱うんじゃねぇ」 やっとの思いで叫びと共に息を吐き出したが、想定外にも程がある。 「な…なんで、こんな所に…あの娘と一緒にアルビオンに……あぐ!」 「こんな所で何叫んでんだてめーは。そういう事は向こうで話しようや……な?」 かなりうろたえていたフーケが大人しくなったが腹が少し凹んでいる。 グレイトフル・デッドで殴ったためだ。 本気で吐きそうなフーケを半分引き摺りながら人気の無い場所へ連れて行く。 さながら事務所の奥に連れて行かれる債権者のようだ。 人は居たが、全員関わる気は無いようで誰も寄ってこない。 都会が寒いのはどこでも同じである。 「ゲホ…!…いきなり何すんだい!」 「あんな場所で騒いだら困るのはオメーだろ?感謝しろよ」 確かにそうだ。未だフーケの首に掛けられた懸賞金は解かれてはいない。 もっとも、殴る必要も無いのだが。 「…そもそも、なんであんたがこんな所に居るのさ」 「使い魔ってのクビになったからな。仕事探してんだよ」 言いながらスデにルーンの消失している左手を見せたが、半信半疑っぽい。 「馬鹿言うんじゃないよ。契約ってのは死なないと解けないんだ。見たところ、死体ってわけでもないし」 「死人か。ま…似たようなもんだろ」 実際の所イタリアでは死亡扱いなので一回死んでいると言ってもいい。 「で、仕事って何さ」 「クロムウェルって奴を殺りに行くんだが…ワルドと組んでたって事は『レコン・キスタ』だよな。アルビオンの道案内しろ」 「…は?」 「いや、アルビオンに行く方法は分からねーわ。行けたとしても地理が分かんねーわで、お前に会えて助かったぜ」 何言ってんの?この人。という目を向けてきているが、無理も無い。 「聞こえなかったか?オメーの組織の頭を暗殺するから案内しろ。って事だ」 「…何言ってるのか分かってるのかい?つまり、あたしは敵って事だよ」 最初こそテンパっていたものの、そこは一級の盗賊。 暗殺という言葉を聞いて顔付きが変わった。 「その態度、聞く耳持たない。…って事か?」 「他を当たりなよ。せいぜい無駄な努力でもするんだね」 まぁ無理も無い。 敵にいきなり協力しろと言ってするやつは居ない。 「仕方ねーな……ああ、言い忘れたが肌の手入れはしといた方がいいぞ。『歳』取ると…シワが出るって言うからよ……」 「わたしはまだ23だよ!シワなんて……ハッ!」 そこまで言うと思い出した。 こいつの…!この男の魔法を越えた能力をッ! (ま…まさか…) 急いで杖を取り出し、錬金で鉄板を作り覗き込んだが本気でヤバイと思った! 「と…歳を取っているッ!」 「じゃあな。『そのまま』元気でやれよ」 半ば唖然とするフーケを後にとっととその場を後にする。 無論、直で適度に老化させただけとはいえ、永久持続するわけではない。 スタンド能力を詳しく知らないからこそ通用する…ハッタリである。 「ま、待ちなよ!話は最後まで…」 やっとこさ我に返ったが、ぶっちゃけもう居ない。 スデにフーケの遥か先を後ろ手を振りながら歩いている。 一分後 「どうした?そんぐらい走っただけで息切れするたぁスタミナ不足だな」 「ハァー…ハァー…待ちな…って言ってるだろ…!」 「おいおい、聞く耳持たないんじゃあねぇのか?」 程よく50手前ぐらいまで老化していたフーケが猛ダッシュでプロシュートを追いかけていたが やはり老化の影響でもうバテて息が上がっている。 広域老化進行中なら死んでもいいぐらいなのだが、そう考えるとまだ運が良い方だろう。 「き、気が変わっただけだよ。案内するよ。アルビオンをね」 職業柄、多少の脅しや尋問などには意にも介さないだろうが この場合は別だ。 キュルケにおばさんと言われてはいるが、まだ23。 言わば『絶好調ッ!誰も僕を止める事はできないッ』的な年齢である。 だからこそ、この老化の能力はキツイ。女性であるならなおさらだ。 『レコン・キスタ』にもそれ程拘っていないのもあるが、あったとしても多分結果は同じだ。 「いやいや、オレとしても無理言ったと思うしな。オメーにも都合があるだろうし、残念だが他を当たるよ」 多少演技掛かっているが、追い込む為の一手だ。 普段のフーケなら通用しないだろうが、ディ・モールトパニくっているので、こうなればトコトン追い込んで利用しやすくすることにした。 まさに外道…いや、まさにギャング! 「……あ……ない……」 「何ィ?聞こえねーなァーーー」 なおも先へ進もうとしたが フーケの呟くような言葉に対し、某六聖拳伝承者のように返す。 女だろうが、敵であるならば手加減無用というだけに一切の容赦は無い。 スト様もビックリだ。 「わ…わたしに、アルビオンを案内させてくださいッ!!」 「そこまで言われちゃあな。しっかり頼むぜ」 逆に向こうから頼んできたところで、あっさりと承諾の意を示す。 テープがあれば録音しておくとこだが、無いので仕方ない。 手のひら返したように態度を変えたプロシュートにハメられた事に今更気付いたフーケだがもう遅い。 強要され渋々承諾したというのなら、途中で反抗する機を窺う気にもなるが ハメられたとはいえ自分から頼み込む形になってしまったのでは、精神的な残り方が違う。 黄金や漆黒と呼ばれるような精神を持っていれば別だろうが、生憎とフーケはそこまでは持っていない。 「こ、この…悪魔が憑いてるんじゃなくて悪魔そのものだよ……」 地面に手と膝をつき、力なく顔を地面に向けているフーケがやっとの思いで言葉を吐き出したが 敵組織を広域老化でまとめて潰した時なぞ、悪魔はもちろん死神だの何だの言われているので今更気にしたりはしない。 当の『悪魔』は淡々と返すだけだ。 「ああ、よく言われる」 猫に弄ばれる鼠と同じだ。 相手の気分しだいでどうにでもなる。 窮鼠猫を噛むと言うように、隙を見て魔法で攻撃ぐらいはできるだろうが 所詮、鼠の攻撃。少しひるむぐらいですぐに追いつかれる。 そうすれば老化という、ある意味死ぬより最悪な能力が待っている。 まして、射程は200メートル程もある。到底逃げ切れるものではない。 完全に何かを諦めたような目でこっちを見てきているが、全く悪いとは思っていない。 一応、殺る、殺られるを体験した仲なので、殺らないだけマシというヤツだ。 「で…案内するのはいいとして、アルビオンへはどうやって行くつもりだい?」 「その辺りも期待してんだがな。どうやってここまで来たんだよ」 「こっちはワルド連れての隠密。行きだけの一方通行だよ」 「あのヤローか…オメー確か盗賊だったよな。裏のルートとかで無いのか?」 「無理だね。あったとしても、これからドンパチやろうって国に好き好んで行くやつが居るもんか」 「あ?オメーの帰りはどうすんだ。大体、何しにきたんだよ」 戦時とはいえ、フーケが出たとなれば追われる事は確実である。 そんな国に目的も無しにやってくるとは思えない。 「ヤボ用だよ。あんたが気にする事じゃないさ」 「まぁいいがな…仕方ねぇ、ジジイに頼むとするか。あんだけ歳食ってりゃ何か知ってんだろ。行くぜフーケ」 あのジジイになら知られても、何とかなるだろうという事からだったが言いながら後ろを振り向くと、見た瞬間速攻でフーケの肩を掴んだ。 「おい、テメー…言った傍から何逃げようとしてんだ」 「い、いや…あの学院に行くのはちょっとね」 あの場所で一犯罪やらかしたのだから、行きたくないのは当然だが少しばかり様子が妙だ。 「…何か妙だな。何かあんな?おい」 「あー…いや」 ハッキリ言わないので、顔を近付け尋問する。 正直距離が近いが、ペッシ的対応である。 「……メンヌヴィルって聞いたことないかい?」 「知らねーな。誰だよ」 「白炎のメンヌヴィル。伝説とまで言われてる傭兵で戦場とは言え楽しみながら人を焼き殺すような外道さ。そうさね、あんたがあの森の中でわたしの腕を掴んだ時のような目をしてたよ」 そうは言ったがフーケ自身はメンヴィルとプロシュートが似ているっちゃあ似ているが、全く同じだとは思っていない。 メンヌヴィルというのは、人を笑いながら殺せるようなヤツと見たが、プロシュートはそうではないと見ている。 必要があれば老若男女区別なく殺るという点では違い無いだろうが、少なくとも楽しんだりはしていない。 もっとも、『ブッ殺す』と心の中で思った時点で足元に死体が転がっているような男とどっちがマシと言われれば迷うとこだが。 「あいつは、こっちに来る前に、オーク鬼を20匹焼いたんだ。 楽しそうに話してくれたよ、人が好きだから焼く。その焼ける匂いが興奮させるんだと。わたしとした事が背筋が寒くなったよ…あれは」 「で?そのメンヌヴィルがどうした」 「……あー、もう仕方ない、言ってやるよ。 …今、学院を襲ってるのがメンヌヴィルの部隊なんだ。人質にするつもりさ」 そう聞いたが、中々良い手だと思う。 戦争なんだから、何でもアリだ。卑怯もクソも無い。やられた方が悪いという価値観だけに、全く敵対心というものが沸いてこない。 「そうか。ならすぐに人が死ぬ心配はねーな。行くぜ、おい」 「…やめときなよ。助けに行くつもりなんだろうけど」 「誰が助けに行くなんざつったよ。アルビオンに行く為にジジイの手を借りたいが敵が居るから排除する。シンプルで良いじゃあねーか」 「行きたいなら一人で行っとくれ。わたしは死ぬ気は無…」 踵を返そうとしたフーケだが、何かにガッシリと掴まれて動けないでいる。 プロシュートの両手は空いているし、周りに人は居ない。 「そうか、なら選ばせてやるよ。オレと学院に乗り込むか…ここで老化するかだ。オレはどっちでもいいぜ?」 「…ッ!」 選択とあるが、行くも地獄、退くも地獄というやつだ。 ベネ(良し)という選択肢は一切存在しない。 「こ…このドSめ…」 ドSと言ったが、ギャングであるからには自然とそうなるものである。 ブチャラティでさえ、必要があればジッパーを使い尋問をしている。 フーケがカタギであれば別にこうもしないが、メイジであり、敵であるからには容赦はしない。 第一、存在を知られたからには、余計な事を…特にワルドあたりに知られたらやりにくくなる。 一段落付くまで手放す気は全く無い。 「分かったよ!行けばいいんだろ!行けば!」 半ばヤケクソだが、まだ学院に乗り込むほうが先があると判断したようだ。 「心配すんな。白炎って事は火だろ?なら一瞬でカタが付く。オメーの出番はねーよ」 無論、巻き込むだろうが仕方の無い犠牲というやつだ。 巻き込むとは言っても馬鹿みたいに火を放っていなければ、解除すれば十分助かる。 敵が死ななくても、倒れている間に杖をヘシ折るか殺ってしまえば何も問題無い。 (火だと都合がいい…どういう事だ?あの宿の時、偏在はともかく一緒に居たタバサって娘は老化してなかったね。確か二つ名が…) 「雪風…か。そうか、あんたの妙な力は温度で変わるんだ。周りの温度が低ければ効かない。そうだろ?」 「50点ってとこだな。だが、流石だな。名うての盗賊ってだけあった中々の洞察力だよ」 「ま、まだ何かあるのかい…」 「何、そんな大した違いじゃねーよ。周りの温度じゃあなくて、体温ってとこだがな」 「どう違うんだよ」 「体温だからな、氷かなんかで冷やせばそれでいい。ま…動き回っちまえば関係なくなるが」 「…そんな弱点話していいのかい?情報持ってクロムウェルのとこに駆け込むかもしれないよ」 「困るのはオレだしな。オメーを巻き込んで足手まといになられる方が厄介だ。それにだ…」 「へぇ、言ってくれるね」 手の内をある程度晒した事に多少安堵し、メンヌヴィルと組むよりは良いかと思ってきたフーケだったが…甘かった。 フーケの肩をガッシリとグレイトフル・デッドで掴み、スゴ味と冷静さと殺意が混じった声で言い放つ。 「裏切ろうとしたら直を叩き込めばいいだけだからよォ。直触りは…関係無いんだぜ…?」 「あ…あ…」 なおも続けるが、フーケは聞いちゃいない。 「オレに直を使わせないようにしてくれる事を期待してんぜ。えぇ?おい」 そう言ってグレイトフル・デッドの手の力を強めた瞬間、人気の無い裏路地に若い女の叫びが響た。 プロシュート兄貴&フーケ ― チーム『はぐれ犯罪者コンビ』ほぼ一方的に結成 戻る< 目次 続く
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【ゼロの使い魔~三美姫の輪舞~】【ラノベ】【ファンタジー】【萌え】【アニメ】【2008】【9】 公式 wiki any6 タバサの行方を探し、彼女の実家付近で情報を集めるルイズ達一行は、タバサが病気の母と共にガリア東端のアーハンブラ城に連行されたことを知る。なんとか城までたどり着いた一行だが、城は多数の兵士が守りを固めており、正面突破でタバサを救出するのは難しい。そこでキュルケが一計を案じることに!? 隊長のミスコールと交渉し、何とか城への潜入に成功した一行。しかし隊長がルイズを気に入り、自分の部屋で酒の相手をさせようとする。少しでも皆に協力したいと思うルイズは、意を決して隊長の元に赴くのであったが・・・。 ガリア側の爪甘すぎワロタ。 仮にも王族の一人を拉致監禁してるというのに、緘口令をしかないどころか、下っ端にやらせるのか。 今更サービスいらねーっていうか、ゼロの巨乳はむき出しでも全くエロスがないな……。 ティファニア級になるとむしろ下品、つまりモンモンこそ至高ということ(確定 虚無の力隠してなかったってことに吹いた。 あれだけ女王の側近として二期ではやりたい放題したじゃないの! ナイチチサービスいらねー(二度目 もう佳境だってのにルイズは何してるのさ~。 男が我慢出来るわけないじゃないのさ。 一応汚名返上の1シーン。 良かった、最後までダメなアニエスはいないんだ……。 ただもうちょっと騎士として、中二入ってるセリフを言わせても良いと思った。 しかし、今更これ以上の臭いセリフ吐かせても、時既に時間切れか……。 お約束展開だよ~。 来週最終回なのに、おっぱい振ってるよ~。 人の姿でいるのが疲れるなら、戻って寝ろよと突っ込むのは正しい反応です。 ナイチチ好きか……、僕も好きですよ……。 ただシチュエーションは選びますけどね……。 ヴィダンシャルはもういいです。 大してキャラ付けが分からないので頭悪い子にしか見えないから。 oh, tera assari! 最近あっさりあっさりばっか書いてて語彙能力の低下が自分でも分かるから困る。 って言ってもつまんねー!庇いようがないほどつまんねー! タバサの一人語りと、アニエスの心境を30分やった方が良かったぜ! これならあんまり絵動かなくて済むんだしな! 名前 コメント
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「UURRRRUUUOOOOOOOOOO!」 その場に聞こえてきた物は、人が出す物ではなく明らかに獣の物。 それも人の命なぞ、簡単に刈り取ってしまう猛獣の如き荒々しさがある。 普通の人間ならば、それだけで逃げ出しそうなものだが 生憎とここに居るのは、常時無反応なタバサと、常時唯我独尊なプロシュートである。 「てめー……仲間は居ねぇって言ったよな?」 メイジに向けそう言ったが、一足先にラリホーと夢の世界へ旅立っているので当然聞こえるはずもない。 であるからには、続け様にゴーレムに捕らえられている男達を見たのだが「ひぃ!」と叫ばれる始末。 彼らの目に映るその姿は、きっとミノタウロスと同じぐらい恐ろしい地獄の処刑人に違いない。 暗がりから、のっそりと巨体が姿を表したのは、子供の体ほどもある大斧を持った人の形。 ただ違うのは、人の頭たる部分に角が生えた紛れもなく雄牛のそれ。 近距離パワー型スタンドと言ってもいい程に人間離れした生物の正体は、いわゆるミノタウロスだ。 思わぬ本物の出現に身構えるタバサとフーケを他所に、乾いた炸裂音が一発その場に鳴ると ミノタウロスの額に銃弾が当たったが、分厚い皮に阻まれ勢いを無くして地面に落ちた。 「ちッ……やっぱ本物か」 さっき男達が捨てていった拳銃を拾って、ミノタウロスにぶち込んだのだが、魔法すら通さないのだから当然の結果だ。 銃を放り投げるとスタンドを発現させたが、間髪入れずにブッ放した事にさすがのフーケも呆れ気味だ。 「……本物でも偽者でもどっち道、撃ち殺すつもりだったな」 なにせ、いきなり額に弾をぶち込んだのだから、この人攫いのように偽者なら脳漿ブチ撒かれて即死である。 『やっぱ』とか言っているあたり、例え人でも構わないと思っているところが、一般的な常識からズレている証拠だろう。 一歩ミノタウロスが踏み出したが、それをガン無視してプロシュートが指でフーケを呼ぶと、一つ言った。 「オメー、先に戻れ」 「……は?あんた、さっき全員でやるって言ってたじゃないか」 自分勝手なのは今更分かりきった事だが、それでも、いきなりこう言われたのではどういう事か分かるはずもない。 予定通りなら役割は足止めなるはずが、いきなり帰れときたもんだ。 二体目のゴーレムを作ったとはいえ、それぐらいの精神力は残っている。 こいつが、わざわざ一番楽な方法を捨ててまで先に帰すような真似はしないだろうと 今一つ腑に落ちないのだが、もしやこいつ……と、しょーもない理由に気付いたような気がした。 「オメーがガス欠になったら、誰がそれ運ぶんだよ。オレはそいつ背負うぐらいなら今ここで始末するからな」 軽く言ったが、間違いなく本気だ。 そりゃあ、誰だって野郎……それも失禁したヤツなんて触りたくもない。 早い話、そのままゴーレムに運ばせようという魂胆だ。 さっきといい、わたしゃ何時から盗賊から運び屋になったんだー。 と、文句たれそうになったが、まぁ考えてみれば確かにミノタウロス相手に余力を残して戦うというのが無理な話である。 風系統のタバサはもちろんの事、今日スデにゴーレムを二回も作っている自分も このままゴーレムを長く操る事もできないし、足止めをやるとしてもそれで打ち止めだ。 そーなってくると、人攫い総勢七人を自力で連れ帰らねばならなくなる。 生憎、縛るような物は無いし、下手すれば精神力が切れたとこを攻撃されかねない。 案外、後の事も考えてるのかと少し関心したが、肝心の本人からすれば、純粋に汚ねぇから嫌だというだけでそこまで考えてはいない。 そもそも、手間をかけさせるならマジに一人だけ残して死体にしちまおうかとも考えていたりするわけで、知らぬが仏というのはこの事であろうか。 「分かってんだろーが……」 「はーい、はいはい。分かってるって」 溜息混じりにそう答えたが、この残虐超人に追われる事になるかもしれないなぞ考えたくもなかった。 朝起きたら……年をとっていましたなんてのは、はっきり言って性質の悪いホラーである。 いや、まだグールが襲ってきた方が撃退できるだけマシってやつだろう。 「それじゃあ、わたし達は先に戻りましょうか」 相変わらず縮こまっているジジをゴーレムの肩に乗せ、まだ夢の中のメイジも掴むと村へと動かしたが 途中、ジジがおそるおそるといった様子でフーケに問いかけてきた。 「あ、あの……」 「どうしました?」 今、このやり取りを見て、土くれのフーケだと気付くヤツが居たら是非とも拝みたいものだが 他とのやり取りに多少の差異はあるものの、ロングビルの仮面が剥がれる程ではないし、第一それはジジには関係無い。 「本当に先に戻って大丈夫なんでしょうか……、あんな小さいお方と……」 そこまで言ってジジが息を飲み込むと言葉を止めた。 メイジを手玉に取り、かなり荒い手段だが結果的に助けてもらったとはいえ、残されたもう一人はジジにとっては同じ平民である。 もしかしたら、メイジ殺しなのかもしれないが、ミノタウロス相手に丸腰でどうするのかと心配しているのだ。 「それでしたら、心配する事はありませんよ。一人はガリアの高名な騎士ですし、それに……」 今度はフーケが言葉を止めた。 なんと言っていいか、説明がつかないからだ。 性格は極めて自分勝手で、目的のためなら遠慮なく無関係のヤツをも巻き込み無差別老化とかいう訳の分からない能力を使う裏家業の住人。 これを、そのまま言うのはただの村娘のジジには少しばかり刺激が強い。 んー、と額に指を当てて考えたが、考えるだけ無駄なので適当に誤魔化す事に決めた。 「まぁ、とにかく大丈夫です。それより少し急ぐので落ちないようにしてくださいね」 当初の予定と違い、ガチでやるならば絶対無差別に老化させるはずと踏んだまでだ。 巻き込まれる前に射程外に出ないと、えらい事になりそうなので、少しだけゴーレムの速度を上げた。 遠ざかっているゴーレムを見送ると、再びミノタウロスの姿を見る。 体は灰色で全身筋肉ダルマ。おまけに、でっかい鼻と口から吐き出されている息が夜風に当たり、白く濁っている。 人間基準からすれば規格外もいいところだが、スタンド使いからすれば、まだ辛うじて規格内だ。 当然、分類は近距離パワー型で、得物が斧なあたり射程距離も似たようなものだろう。 したがって、取り乱したりする必要が全くなく、とりあえず破壊力はAだな。と思っているぐらいである。 横目でタバサを見たが、例によって無表情だ。 やる気があるのか、それとも緊張で固まっているのか判断付かないので、一応聞いておくことにした。 「さて、こうなってくると取るべき選択は二つある。①―この場所から速やかにバックレる。②―この牛野郎を始末する。オメーどっちだ?」 「②」 間髪入れずに返してきたあたり、腹は決まっているようだ。 それにしたって、ミノタウロスを始末するつもりが、実は偽者で、その偽者を捕まえ終わったと思ったら、わざわざ本物が出張ってきてこのザマだ。 なんというか、ただでさえ割りに合わなかった物がさらにレイズされて、さらにやる気になれない。 「ったく…追加報酬モンだぜ、こいつは。大体…報酬自体がシケて……いっその事、こいつの皮剥いだら売れねーか?硬いんだろ?」 こんな労働条件下では愚痴の一つや二つこぼしたって罰は当たらない。むしろ、利益は自分で確保しねーとと思うようになってきた。 弾や魔法を通さないんだから、鎧かなんかの材料で金にならねーかと考えてみる。 ただ、普段であれば直をブチ込んで始末するところだが、今回はどうもやる気になれない。 あの牛頭で体温の事に気付くはずはないだろうし、このパワーは脅威だが、射程距離が短いだけに何時でも殺れる。 でも、やっぱりやる気が出ない。ただ、銃とかで撃ち殺せるのならとっくにやっている。 この場合のやる気というのは、老化で始末する気が起きないという事だ。 もちろん、いよいよとなればブチ殺すのだが、あくまで他に手が無くなった時だ。 さて、他の手だが老化抜きとなるとグレイトフル・デッドで力一杯ブン殴るぐらいしか無い。 破壊力Bであの筋肉ダルマにダメージを与えるのも面倒だし、かといって銃弾が通らないって事は刃物も通らねーだろうし どーしたもんかと考えたが、そもそもこの横の青粒がやると言った仕事だ。 足場と視界の悪さが消えた現状、どこまでやれるか分からんが予定通りに任せてみるのがよさそうだ。 しかし、それは建前。 実際のところ、老化させたら皮なんぞボロボロになって金になんねーしなー。とか、割と本気で売る事を考えていたりもする。 現状、金には困っていないが、金なんて代物は手に入れられている時に手に入れておかねば必ず底を尽く。 手に入れられるか分からない明日の十万より確実に手に入る今日の一万を選ぶ。 少し貧乏臭いが、それが厳しい現実を生きてきた暗殺チーム故の考え方だった。 「それじゃあ、オレはそこで見物してっから仲良く殺ってくれ。マジに死にそーになったら手ぇぐらいは貸してやるが、一発でミンチになんなよ」 手を借りたいっていうのであれば、向こうから言うだろうし、言わないでくたばったら、それはそれで向こうの勝手だ。 欠伸を噛み殺しつつ言うと、適当な木に背中でも預けようと後ろを向いたが、一つ溜息を吐くと後ろへと振り向いた。 「牛公が……お前の相手はあっちだろーが」 ミノタウロスがメンドクセー事に大きく振り上げた斧をタバサではなくこっちに向けている。 一応スタンドの目で(どれで見ているかは本人もよく知らない)後ろは見ていたが 人がせっかく譲ってやろうという獲物を放置してこっちに向かってこられるのも少しばかり気に入らない。 まぁ、牛頭の考える事などいくら考えたところで理解できないだろうし、理解する気もない。 とにかく、こっちとしては相手する気は無かったが、このまま放置して掻っ捌かれるというわけにもいかず 振り向くと同時にスタンドを割り込ませたが、グレイトフル・デッドの腕がミノタウロスの腕に触れると同時にプロシュートが顔をしかめた。 グレイトフル・デッドの腕を割り込ませ大斧を反らそうとしたが、想像以上に重い。 そのまま腕を弾き飛ばして避けるつもりが、予想より動かず力任せに振り下ろされてきている。 老化にエネルギーを使っているとはいえ、それなりの格闘戦能力を有し こちらから干渉しているとはいえ、本来干渉されないはずの実体相手に明らかにパワー負けしている。 精々オーク鬼より多少強い程度と思っていただけにナマモノ相手にこうなるのは予想外だ。 「ヤッベ……!」 咄嗟に体を捻ると、さっきまで右肩があった場所を半端ない速度で大斧が通っていった。 (このパワー……スティッキィ・フィンガースどころじゃあねぇな……) 抉れた地面を見たが、体を捻るのが少し遅れていれば、間違いなく腕を一本もっていかれているところだった。 スティッキィ・フィンガースに一度切り離されかけたものの、射程距離外に出たせいかよく分からんが とにかく、せっかくくっついていたモンを、また無駄に飛ばされたりしたのでは洒落にもならない。 近距離パワー型にもステイッキィ・フィンガースやパープルヘイズのように、拳を食らえば決着ゥ!のような能力を持つタイプが多いので それに対応する為の癖もあってか受けてガードせず割り込ませて反らしたのだが、それも幸いした。 下手に受けていれば腕どころか、綺麗に真っ二つたったはずだ。 「やってくれるじゃあねぇか……牛公が、上等だ」 「不注意」 「ルセーぞ」 悪態を吐く横からタバサが突っ込んできたが、それに関しては返す言葉は無い。 どうやら殺し合いで余計な色気出すとろくな結果にならないというのは、どこの世界でも同じらしい。 最近そういう戦いを全くしていなかったので余計な考えが混ざるようになったのかもしれない。 こっちではワルドとやったのが最後でそれ以来ご無沙汰だ。 メンヌヴィルは、ギャング的に考えるならそれに値しない。 当の本人が油断しきっていてくれていたというのもあるし、なにより楽しんでいたというのが問題外だった。 その点、このミノタウロスはそういう余計な事を考えずに、本能だけの漆黒の意思だけで殺しにかかってきている。 もっとも、獣みたいにストレートに殺意をぶつけてくれた方がスタンド使いのように影から狙ってくるより余程有難い。 そもそも、色気を無駄に出すから、ヘンに曲がった所で殺し合うのが人間という生き物だ。 やはり世の中一番怖いのは人間である。 例えば、相手を小さくして蜘蛛の入ったビンに詰めるヤツとか、鏡の中に引っ張り込んで一方的に攻撃するヤツとか 息子を寄生させて栄養源にさせるヤツとか、鉄分操作して体の中からカミソリやハサミをブチ撒けさせるヤツとか数え上げたらキリが無い。 マジ、どいつもこいつもろくでもねー野郎ばっかだな。とか今更ながら呆れてきたが 何処かの誰かの『お前が言うな、お前が!』とかの抗議は、これまたどこかの風邪っぴきのような自虐などという高尚な趣味なぞ持ち合わせていないため全力でスルーだ。 とにかく、売られた喧嘩は買わねばならないし、貰った物はきっちり利子付けて返すというのが礼儀というものだ。 改めてミノタウロスを見たが、地面にめり込んだ斧を引き抜くと、何が起こったのか理解し難いような様子で斧の柄を見ている。 渾身の力を込めて放った一撃が、僅かだが勝手に逸れたのだから獣なりに理解できないというところか。 「死にたくなけりゃあ、今のうちに氷作っとけよ」 特に氷が必要な状況でもないのだが、あの牛相手に動き回って体温が上がれば老化する。 正直なところ、あの筋肉ダルマを正面から相手するのはスタンドを以ってしてもヤバイ。ディ・モールトヤバイ。 攻撃が決まれば決着が付くという点では、ミノタウロスもプロシュートも同じだが、他の二つ。 つまり、防御力と速度は向こうの方が圧倒的に上回っている。 スタンドで防御して紙一重というザマだ。 下手すりゃホワイト・アルバムの装甲でも耐え切れるかどうか分かったもんではない。(もちろん、その前に凍らせるだろうと思っているが) 老化で弱らせていくにしても、能力者本人としては関係無いし影響も受けないのだが問題はミノタウロスがタバサを狙ってくればどうかという事になる。 付かず離れずの距離で動き回らせ、少しづつだが確実に老化させ十分なところで直を叩き込む。 その過程で、タバサの方が先に老化して動きが鈍ったところにあの大斧が飛んできたら、さすがに拙い。 防御するにしても、前にワルドに食らった風の塊程度で、あの筋肉の塊が吹き飛ぶはずはないし、ダメージには繋がりはしない。 タバサぐらい小さければ避けに徹すればそうそう当たらないだろうが、そうなってくるとどちらが不利かは一目瞭然だろう。 喩えるなら、ミノタウロスが人間でタバサが蚊というところだ。 蚊がいくら人の血を吸おうと、直接的なダメージにはならず 対して、人間は多少梃子摺る事はあるだろうが、蠅如きは一撃で叩き落せる。 もちろん、そこまでタバサを過小評価しているわけでもないが、実際のところ実戦闘を見たわけでもないので、どの程度なのか今一つ把握できていないのだ。 そういう意味では良い機会かもしれないが、一発貰えば再起不能を通り越して名前の横に『――死亡』とかが付いてしまう。 なにせ、将来的な観点からすれば、かなりの大口のクライアントである。 パッショーネという看板を背負っていた頃は、報酬はともかくとして仕事はあったが、こっちではそんなツテなど全く無い。 悪い意味で古い世界だけに、裏の組織とかも探せばあるだろうが、そんな所に属しても前の二の舞だ。 色々条件は付くが、王位を追われた元王女という肩書きのタバサに乗った方が、何十倍かはマシだろう。 一瞬のうちに、七割の打算と三割の妥協が混じった考えを終わらせると指をゴキリと鳴らすと それと連動してグレイトフル・デッドも片腕を中に上げ、その鉤爪のような指を動かした。 後は、久々に老化ガスを垂れ流すだけだ。 錆び付いてなけりゃあいいがな。と、少し思わないでもないが、精神力の具現なのでたぶん大丈夫だ。 さて、準備はできたかとタバサを見たが、思わずその青い頭をグレイトフル・デッドの手で思いっきり掴んで持ち上げたくなった。 そうしなかったのは、そんな事やってる場合じゃないからだろう。 「言ったよな?氷作れってよ。話聞いてねぇってのが最もムカつくって知ってんのか?お前は」 もう、どこまでそのポーカーフェイスが保てるか、笑顔で一時間ぐらいアイアンクローを叩き込みたい。 なにせ、わざわざ氷作れつってんのに、何もしてなかったんだからそう思いたくもなる。 ギアッチョみたいに気が短い方でもないが、長い方でもないのだ。 そろそろ額のあたりに血管の一本や二本浮き出てきてもおかしくなくなってきたがタバサは一向に動じず近づいてきた。 見る人が見れば、脱兎の如く逃げ出すであろう状況下でも平然としているあたり、やはり大したタマである。 「わたし一人で大丈夫」 杖を握り締めながらタバサが言ったが、プロシュートは、なに寝惚けた事言ってんだ、というような顔をしている。 「まさかだろ?こいつはお前じゃあ無理だ。実力以前に相性が……チッ!」 言い終える前に二人が逆方向に飛んだ。 二人が飛んだ瞬間、轟ッ!という音と共にあの大斧が振り下ろされてきた。 「……悪りぃんだよ!」 獣に空気読めと言ったところで無駄だろうが、全くどいつもこいつも勝手ばかりしてくれる。 なんだか煙草でも欲しくなってきたが、もうストックは使い切って補充もきかない。 この際、安煙草だろうが葉巻だろうがニコチンが補充できれば何でもいい。 麻薬こそやらないが、世の禁煙の流れなぞクソ食らえだ。 肝心のミノタウロスの攻撃速度は大降りで、スティッキィ・フィンガースの拳には劣るものの、破壊力がケタ外れで避けるしか方法が無いというのがまた厄介だ。 日本には、『当たらなければどうという事はない』という諺があるらしいが、逆に言えば当たればヤバイという事の裏返しである。 それが分かっているから、さっさと老化ぶち込んでケリ付けちまおうとしているのに、片意地張ってるのか知らないが大丈夫だときた。 攻撃が効くならともかく、精々足止めぐらいしか手段を持たないタバサが出張ってもあまり役には立たない。 だから、ちと強情なタバサに対して皮肉が混じった文句が出た。 「なにが大丈夫だ?避けるだけで手一杯じゃねーかよ」 言いながらも視線はミノタウロスからは外さない。 獣の本能に満たされた目を赤く光らせ、涎を垂らしながら深々と刃先が地面に埋まった大斧を地面から引き抜いている。 そのミノタウロスの向こう側から、タバサの少しばかり感情の篭った感じの声が聞こえてきた。 「これは確かに危機でもあるけど好機でもある。 このミノタウロスを倒す事ができれば、自分の手で仇が討てる確率が上がる」 「…ったく……勝手にやってろ」 ここまで言って聞かないなら、何を言っても無駄だ。 その上でくたばってもそう選んだのだから関知するところではない。 激流に身を任せたような声を出すと、その返礼として呪文が返ってきた。 「ラグース・イス……」 タバサが持つ魔法の中では、単体に対しては特に大きな攻撃力を持つ魔法『ジャベリン』だ。 精神力を集中させ、詠唱を完成させようとしていたが、ミノタウロスとて獣とはいえ馬鹿ではない。 いや、獣だからこそ本能で危機を察知する能力には優れている。 「ヴォォオオオオオオオッ!」 ミノタウロスの咆哮で、周辺の空気が揺れたと同時に、大斧をタバサへと振り下ろすべく突進を始めた。 「イーサ………ッ!」 一直線に突っ込んでくるミノタウロスを目にしてタバサの顔色が一瞬変わり 瞬時にどう対応すべきかと選択肢を選ぶことを余儀なくされ呪文を詠唱するどころではなくなった。 ミノタウロスが取った行動は獣らしく実にシンプルッ! 魔法が放たれる前に仕留めてしまえばいいという簡潔極まりない、まさに本能の塊とでもいうべき行動だった。 もちろん、それだけではなく、万が一魔法が放たれても並大抵の魔法なら己のブ厚い皮膚で止められるという確固たる自信もあるはずだ。 体格差からすれば、爆走する機関車にも等しい。 これを止める事ができるのは、全てが静止する世界を創り出す事ができるギアッチョぐらいのものだろう。 タバサもジャベリンは放たずに避けるだけで精一杯だ。 放とうと思えば放てるが、それより前に頭の中であらゆる可能性をシュミレートしている。 仮にジャベリンを放ったとして、あのブ厚い皮膚に阻まれば精神力の無駄遣いになるし なにより、ミノタウロスが距離を離すまいと大斧を振りながら間合いを詰めてきている。 当たればタバサの華奢な体など一撃で粉々にできそうな、人の身では決して叶わぬ圧倒的な筋肉の暴力。 君がッ!死ぬまでッ!斧を振るのを止めないッ!と言わんばかりの無尽蔵かとも言えるスタミナ。 相手を殺し喰らうという、純粋なまでの漆黒の殺意。 襲い掛かる大斧を避け続けながら、このミノタウロスをそう評価したが、額を汗が伝う。 攻撃するにしろ、このまま避けるにしろ、今のままではタバサには打つ手が全く無い。 逃げるという事を頭をよぎったが、それはまだだ。 だが、考える時間が欲しい。三分、いや一分でもいい。 予想していたより遥かに強靭なミノタウロスを突き崩す事のできる方法を考えるだけの時間が。 そんな思いなぞ知らぬミノタウロスが何度目かの大斧を振り降ろそうとした時、重い音が届くと同時にその巨体が傾く。 突如として起こった異変にタバサも動きを止めると、視線の先には上着を脱いだプロシュートが立っていた 「ブルァァァァアアアア!」 後ろからの不意打ちによって、ミノタウロスが叫び声を上げたが、プロシュートとてそれで仕留めたとは毛頭思っていない。 無防備な脇腹に拳を叩き込んだのだが、返ってきたのはブ厚いゴムでも殴ったかのような手応えだった。 なんというか、生物を殴ったような感覚が全くない。 大抵のモノならそのまま殴り抜けれるが、手を抜いていれば弾き返されていたかもしれない。 「クソ…ッ!硬ってぇな……」 予想はしていたが、実際殴ってみるとバケモンだなと、まざまざと思い知らされる。 破壊力Bとはいえ、列車に備え付けられている固定された備品(椅子や運転室のパーツ)程度なら余裕で破壊できるグレイトフル・デッドである。 それのフルパワーで殴ったのに全く手応えがないのだから、紛れもないバケモノというやつだ。 ホワイト・アルバム相手にするのとどっちが厄介かと天秤にかけたが、今のところ針は拮抗状態というところか。 それでも、無防備なところを付いたおかげで、その巨体が傾むいただけマシだ。 派手に音を立ててミノタウロスが倒れていったが、ダメージが皆無なのは殴った本人が一番承知している。 「三……いや五分老化抜きで稼いでやる。その間に始末しろよ」 老化抜きで、あのミタウロスを相手できるリミットは多くて五分。 それ以上はスタンドパワー以前に本体の体力が持つかどうか分からず、老化を使うしかなくなる。 「どうして?」 タバサが短く言ったが、何故老化抜きでやる気になったのかという問いが含まれている。 今のが殴るのではなく、直触りを決めていれば決着は付いていたのだからそう思うのも無理は無い。 珍しく腑に落ちない様子のタバサを見て、プロシュートが少しだけ笑みを浮かべると、だが、あくまで真剣な声で言った。 「オメーが勝手にやんのなら、オレも勝手にやらせて貰うだけだ。 だが、ハッキリと言っておくぜ。この間に『成長』できなけりゃあ、お前が仇を討とうなんてこたぁ到底不可能だ!」 例え無茶な任務でも、血反吐吐くような思いをしながら任務をこなしてきたのが暗殺チームだ。 否が応でも、成長しなければ(スタンド能力的にも、精神的にも)ボスを暗殺する事などできはしないという事は誰よりもよく知っている。 目標が組織のトップという同系統の相手だけに、面倒な事に付き合ってやる気になったのだ。 「LSSON3。無敵のスタンド能力なんざねぇ。無敵に見えても穴の一つは二つは絶対にある!あの牛も同じだ、気合入れろよ~」 ホワイト・アルバムにもマン・イン・ザ・ミラーにも形こそ違うが不得手な部分や穴はある。 自分のスタンドを無敵などと言うヤツは、大抵自信過剰が仇になって自滅するようなヤツが多い。 汎用性の低い能力なら、なおさら不得意な部分は把握しておく必要がある。 そうすれば、相性が最悪な相手に出会っても、少なくともいきなり突っ込むという事は無い。 「ヴルァァォオオオオオオッ!」 のっそりと巨体を起こしながら、ミタノウロスが天に向け咆哮する。 振動によってリビリと空気が揺れたが、タバサが小さく何か呟いたような気がした。 「……りが…う」 元々、声のボリュームが小さい事と、ミノタウロスの叫びによって聞こえなかったが、そんな事気にしている余裕は無い。 「五分だ。その間にオメーの氷をブチ込め!いいな!」 プロシュートがそう言うと、タバサも杖を構えた。そして、それを見てプロシュートも構える。 ただし、構える物は武器や杖でもなく、人の精神の具現化。傍に立つもの。又は立ち向かうもの。 数あるスタンド能力の中でも異形と言うに相応しい姿が、その全身を出現させ その足代わりの手を付くと、跡を浮き出させるかのように地面に穴が開き、見えざるものがその場に現れた事を告げた。 「ザ・グレイトフル・デッド!」 ←To Be Continued
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なんとか決闘のやり直しにこぎつけたモット伯だが、その心は重く沈んでいた。 まず勝っても負けても、あのおっぱいメイドを手放さなければならないのだ。 ミス・ロングビルが立会人としている以上、この男を殺しても、約束を無かった事に することは出来ない。 さらにはもし、この平民に負けでもしたら… その話が広がれば、貴族としての名誉が地に堕ちるどころの話ではないだろう。 にしてもこいつ…危ない秘薬でも使っているのか? 先程のこの平民の速さは尋常ではなかった。 さらにここは食堂だが、決闘を行うという事で、机や椅子を片付けるよう命じた おかげで、障害物になるような物はほとんどない。本来ならこちらが有利に なりそうな状況なのだが、下手に魔法を避けられでもしたら、次の瞬間自分の杖が、 先程と同じように弾き飛ばされかねない。 癪に障るが、本気になる必要があるようだな! この私の名誉と!そしてめぐるめくおっぱい性活の為にッ! 理由はどうあれ、トライアングルメイジ、波濤のモットはその力の全てを使い、 眼前の敵を倒す事を誓ったのだッ! 「相棒、狒々親爺がいっぱしのいくさ人の顔になりやがったぜ…」 デルフの言葉通り、モット伯の雰囲気が変わった事に育郎は気付く。 「わかった、気をつける…」 油断していないのなら、先程のように奇襲は通用しないだろう。 「それでは二人とも、用意はいいですね?」 部屋の端と端に立った育郎とモット伯が互いに頷き、杖と剣をそれぞれ引き抜く。 それにあわせてミス・ロングビルは巻き込まれないよう、部屋の隅に向かう。 「始めてください!」 その声と供に、育郎がモット伯に向かって走る。 先程とは違い距離があり、相手も警戒しているので奇襲とは行かないだろうが、 もとより離れた相手への攻撃方法があるわけではない。相手の攻撃魔法を避け、 次の魔法を行う前に杖を叩き落す、育郎はまさしく先程モット伯が警戒した 通りの戦法を取ろうとした。しかし 「なんだって!?」 突如モット伯の手前に水の壁が現れ、育郎が思わず立ち止まる。 よし、立ち止まってくれた… モット伯が心の中で安堵の声をあげる。 実はこの水の壁はあまり厚くない。火の系統の魔法なら大抵のものは防げるだけの 魔力は込めてあるが、物理攻撃には対してはそれほど強い防御効果は無いのだ。 大人一人の突進で十分に突き破れるだろう。だがこの平民、見たところそれほど 戦いになれているようには見えない、この事に気付かない可能性は十分あると モット伯は考えたのだ。 「『波濤』のモットの真髄、とくと見るがよい!」 叫びと供にモット伯が杖を振ると、水の壁が崩れ、生き物の如く蠢く蛇にも似た 水流を作り出し、己の傍らに控えさせる。 「ゆけ!」 モット伯の命に応じ、水が一直線に育郎に向かって飛んでゆく。 「相棒!俺でぶったぎっちまえ!!」 どこか嬉しそうなデルフの声に従い剣を振る、しかし 剣が振り下ろされる前に、水流は2つに別れ、そのまま育郎の背後でもう一度一つに つながり、水流は育郎を中心とした円を描いた。 「チェックメイトだ!」 その声を合図に、円となった水流が、育郎を捕らえるべく急激に縮まった。 「何だと!?」 今度はモット伯が驚愕の声をあげ、天上を見やる。 水流が育郎を捕らえるかと思われたその瞬間、育郎は飛び上がり、そのまま天上に 備え付けられたシャンデリアに捕まったのだ。 「危なかった…」 「安心するのはまだ早いみたいだぜ、相棒!」 シャンデリアにぶら下がった育郎に向けて、再び水流が襲い掛かる、しかし紙一重で それをかわし、床に降り立った。 「まいったな…」 「ああ、あのおっさん、おもったより…やる!」 デルフの声を聞きながらも襲い掛かる水流を避ける。そのままモット伯に接近 しようとするが、そうはさせじと、避けた水流がすぐに後ろから襲い掛かろうと するため、なかなか攻勢に移れない。しかもモット伯は先程から水流を操る魔法しか 使っていないため、魔力を温存したまま戦っているのだ。 「持久戦もきつそうだな、段々良い攻めなってやがる…」 しゃがんで背後からの水流を避けた育郎に、デルフリンガーが声をかける。 「ああ、それにさっきみたいに動きを『変化』されるかもしれない」 立つ間もなく襲い掛かる水流を転がって避け、その勢いを利用して起き上がる。 にしても野郎…俺様に斬られない様に水を操ってやがる… 口に出して言ったのはやっぱまずかったかなー? さすがにデルフの能力に気付いているわけではないが、デルフの声に何かあると 感じたモット伯は、攻撃する時は、なるべく剣から離れた場所を狙っている。 故に一見モット伯が優勢に見える状態になっていた、だが 思ったよりしぶとい! だが焦るわけにはいかん! 『急いては胸を揉み損じる』! オールド・オスマンもそう言っていたではないか! モット伯は自分がそれほど有利だとは考えていなかった。 そもそも相手は自分の剣と会話をするほど余裕があるのだ。勝利を焦り、攻撃を 雑にするわけにはいかない。確実な勝利の為に、もう少し時間を稼ぐ必要がある。 そう考えながら水流を操っていると、後ろからの水流を避けた育郎が、方向を 変じようとする水流に向かって跳びかかる。剣で斬られると警戒したモット伯は、 水流に方向変換を命じる。 「しまった!」 しかし、そのまま育郎は水流自体にぶち当たりにいった! 自分に向かって水流が襲い掛かるのでないなら、そのまま突っ切る事が出来る。 その考えは正しく、水は育郎の体当たりによって半分ほどはじけぶ。 「もらった!」 勢いを殺さず、そのままモット伯に迫る。しかしその時、窮地に立たされた筈の モット伯が、顔に僅かな笑みが浮かべて杖を振る。 「いや、礼を言わせて貰おう。時間を稼ぐ必要もなくなったよ!」 「相棒、下だ!」 「何だって!?」 足元から突如現れた氷の槍が、顔面に向けて飛んでくるのを何とか避ける。 「ありがとうデルフ」 「いいって事よ。にしてもどういう事だ?今のはウィンディアイシクル! あれだけ離れた場所に氷の槍を作り出すなんざ、トライアングルにゃ…」 デルフの疑問にモット伯が勝利を確信した声で答える。 「足元を良く見ることだ」 「うう、こ…これは…ッ!」 見れば何時の間にか、水がそこかしこに散らばっているでは無いか。どれも普通なら すぐに絨毯に染み込んでしまいそうな程の量でしかないと言うのに。 「気付かなかったのか?私の操る水が少しずつ小さくなっていた事を… そうだ、攻撃しながらばら撒いておいたのだよ、私の魔力が込められた水を! そしてッ! お前の突撃によりさらに水がちらばった事で、私の勝利が決定した…」 目の前に光景に、育郎の顔が青くなる。 モット伯が杖を振ると、ちらばった無数の水滴が一斉に氷の槍へと姿を変えたのだ。 「さて、お前がすばやいと言っても、これだけの攻撃をはたして避けられるかな?」 どうする!? これだけの数、全てを避ける事はできない!デルフで切り払うのも無理だ! 自分の周りを囲む氷槍を見回すと、育郎の目にあるものが映った。 そうだ!しかし間に合うか!? いや、やるんだッ!やるしかないッ! 「逃げても無駄だッ!」 先程のように、シャンデリアにむかって飛び上がった育郎に向けて、モット伯が 生み出した氷の槍全てを発射する。 「盾にでもするつもりか?しかしこれだけの数、全てを防ぐ事はかなわんぞッ!」 モット伯が叫んだ次の瞬間、全ての氷の槍が育郎に襲い掛かり、ミス・ロングビルが 誰にも気付かれずに小さくガッツポーズをとった。 「なんだと!?そんな馬鹿な!」 モット伯が驚愕の声をあげる。 所々服が切り裂かれている場所はあったが、天井からぶらさがる育郎には目立った 傷は無かった。しかしそれだけではない、育郎の右手にデルフの代わりに握られていた ものこそ、モット伯が最も驚かされたものだった。 それはシャンデリアだった。 そう、根元からへし折ったシャンデリアで、育郎は氷槍を全て叩き落としたのだッ! 育郎は右手一本でシャンデリアを振り回し、そして左手一本でそれを支えていた器具 をつかみ、自分の体重とシャンデリアを支えているのだ。 「嘘だ…そんな…」 モット伯床にへたり込む。先程の魔法で精神力は全て使ってしまった。 もう自分には戦う術は無い。 「ま、まいった!」 シャンデリアを手から離し、床に降り立った育郎にモット伯爵は降参の声をあげた。 「すまないデルフ」 床に落ちたデルフをひろいながら、声をかける育郎。 「イインダヨアイボウ。キニスンナ、オレハダイジョウブダカラ」 「で、デルフ?」 「ウン、ダイジョウブ。キットツギガアルサ」 「次?」 「アイボウハキニシナクテモイイヨ。ホント、ナンデモナイカラ」 「そ、そうかい?」 「ウン、ナンデモナインダ。ハハハハハハハハハ」
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声のする方向に視線を向けたが、なにやら揉めている。 アニエスがコルベールに剣を突き付けているようで、中々の修羅場のようだ。 「さっきから何やってやがる。内輪揉めとか本気で勘弁しろよ。メンドクセぇ」 負傷や戦闘の疲れでかなりダルい。 最悪二人ともブン殴って終わらすかと思って近づいたのだが、どうも事はそう単純ではないらしい。 「貴様…何故わたしを助けようとした! あの時、女、子供も容赦なく焼き殺したお前が!今、わたしを助けるぐらいなら何故あの時故郷を焼いた!!」 アニエスのその言葉を聞いて思い当たる事はある。 リッシュモンはあの時殺ったが、あれは命令を出しただけだ。パッショーネで言うならボスの立場か。 当然、実行者。これもパッショーネに例えるなら暗殺チームが居るはずなのだが、それがコルベールか。と判断した。 「命令だった……」 「命令?リッシュモンのか!」 「そうだ。……疫病が発生し、焼かねば被害が広がると告げられた。仕方なく焼いた」 そんな二人のやり取りを聞いてプロシュートの眉が少し上がった。 どうも今の言い様が気に食わないのだが、とりあえずもう少し聞いてみる事にした。 「バカな…それはリッシュモンがでっちあげた嘘だ……!」 「……ああ、後になってわたしも知った。新教徒狩りと知り毎日罪の意識に苛まれた。メンヌヴィルの言ったとおりの事をわたしはやった」 「それで……それで軍を辞めたのか」 「そうだ…二度と炎を破壊の為に使わないと誓った」 「そんな事で…貴様が手にかけた人が…帰ってくると思っているのか?故郷と家族の仇討たせてもらうッ!」 アニエスが剣をコルベールの首に突き付けたが、それでもコルベールは動こうとはしない。 それを見てもプロシュートとしては止める理由も特には無い。 自身が恨みを買う立場だっただけに、復讐者に対しては 『殺れるもんなら殺ってみやがれ。ただし、死ぬ覚悟はしておけ』 である為に、抵抗する気が無いならそりゃあそいつの勝手だ。 という事で今の所邪魔する気は無いのだが、そうもいかないキュルケが割り込んできている。 「お願い、止めて!確かにコルベール先生はあなたの仇かもしれないけど 今はあなたを助けようとしてくれたじゃない。それでも斬るっていうの?」 確かにあの時グレイトフル・デッドが割り込まなければ間違いなくコルベールは死んでいた。 そのせいか、アニエスの目に迷いが出始める。 「ぐ…ッ!だが…二十年前にわたしの故郷を焼いた事には変わりはない…ッ!こいつが…いくら後悔していようとだ」 そうは言うがかなり迷っているようで、切っ先が上がったり下がったりしている。 昔の仇と今の恩。どちらも天秤にかけるには重いが、それでも僅かに仇の方に傾いたようで剣を振り上げた。 と、そこにプレッシャーを撒き散らしながら、プロシュートが三人に近付く。 「おい」 「何だ!貴様も邪魔するつも…り」 アニエスが見た物は、問答無用で構えられている握り拳が飛んで来る様。 反射的に防御姿勢を取ったが、それはアニエスを捕らえる事なく……コルベールに突き刺さった。 「なな…何を…」 相変わらずの突拍子の無い行動を目にしたキュルケがどういう事態か理解できずに聞いてきたが 殴った方は、それを無視してコルベールの胸倉を掴んだ。 「さっきから黙って聞いてりゃ、何ふざけた事言ってやがるてめー…」 「な…わたしは何も…」 まだ何か言う前にもう一発追加で拳が入る。 「まだ分かんねーのか。さっき言ったな?仕方なくってよ。 仕方なく?仕方なくだと?ナメんのも大概にしやがれ。知らなかったってのは良い… 組織に属している以上、命令はあるからな…別にその事じゃあねぇ。 だがッ!『罪の意識に苛まれた』だと?それじゃあ仮に疫病が発生してたってんなら仕方ないって事で済ませれる。そういう事だよな?おい」 暗殺チームの立場からすれば、『疫病』も『新教徒』も違いは無い。 殺るか、そうでないか。のどちらかでしかない。 結果は問題とはしていない。むしろ、その過程にある物が気に入らないのだ。 疫病だろうが、新教徒狩りだろうが、ダングルテールを滅ぼしたという結果に変わりは無い。 だが、こいつは疫病だったから仕方なく焼き、そして新教徒狩りと分かれば後悔したなどと言った。 暗殺任務において、『仕方なく』やった仕事などは一切無いだけに、余計に気に入らない。 「自分がしでかした事から逃げたんだよ…オメーは。 請け負った仕事が偽物だったんなら、その時命令を出したヤツを殺るならすりゃあいいじゃあねーか。 それもしないで、何が仕方なくだ。なぁにが罪の意識だ。大体オメー隊長だったんだろうが。部下はどうすんだよ。 オレ達チームの他のヤツならッ!組織に裏切られとしても逃げたりはしねぇ!例え途中で仲間が何人死のうとも決してなッ!」 だからこそ、ホルマジオも、イルーゾォも、ペッシも、メローネも、ギアッチョも、リゾットも戦い死んでいった。 ボスがジョルノに倒されてさえいなければ、今頃は、イタリアで墓の下か潜伏生活というところだろう。 「それでも分からないってんのなら……」 言葉の温度が一層低くなり、次の言葉にキュルケとアニエスが凍りついた。 「……いっその事、ここで死ね。なに、オレに殺られるのも、そいつに殺られるのも大して違いはねぇ。この際だ、オレがブッ殺しといてやる」 絶対零度。さっきコルベールが発した、触れば火傷し燃え尽きるような感じとは全く違う雰囲気。 暗殺という汚れ仕事に従事し、対象が誰であろうと躊躇しないという全てを凍らす冷徹極まりない声。 コルベールもそういう物を持っていたかもしれないが、プロシュートから言わせれば、まだ甘い。 言うなれば、専門職と兼職の違いか。この場において、その差がハッキリと出た。 スタンド使い以外には見えない力がそ右腕より発せられ、コルベールの首筋を掴みその跡を出現させる。 こうなれば、一瞬で終わる。直ならば、人一人老死させる事など容易い事だ。 が、不意にスタンドを解除しコルベールを離した。 「…それをオレに向けるって事がどういう事か分かってやってるんだろうな?」 明確に向けられている敵意。後ろを見なくても誰が何をしようとしているかぐらいは分かる。 「分かってる、でも!そんな事は絶対に許さない…!」 何時に無く真剣な顔のキュルケが、すぐ後ろで杖をこちらに向けている。 「先に言うが…スデにグレイトフル・デッドはオメーの真正面だ。それでもか?」 キュルケがその問いには答えず、呪文を唱え始める。 「馬鹿が……ッ!」 先にもあったが、敵対するつもりなら一切の容赦はしない。 だが、掴もうとした時、下のコルベールが静かに口を開いた。 「わたしの教え子には、手を出さないでくれ」 「そうしたいんだが、向こうがそうさせてくれねぇ」 「もういいミス・ツェルプストー。わたしはそれだけの事をやったんだ。その報いだよこれは」 「嫌です!あんなに小ばかにしていたあたしをミスタは守ってくれたでしょ。だから今度はあたしが!」 「…ってこった。悪いがオレは手加減なんっつー器用は事はできねぇからな」 一触即発。誰かが少しでも動けばケリが付く。 キュルケが杖を動かすと同時にプロシュートがスタンドを向け、コルベールが止めようと声を出そうとした時 風が吹き、キュルケを吹き飛ばす。コルベールとプロシュートには直接当たらないようにだ。 これだけの風を精密に使いこなすのは、この場所においては一人しか居ない。 「タバサ…あなたどうして……」 倒れたキュルケが顔を上げると、杖を持ったタバサが顔を横に振る。 「駄目」 その一言。それだけの行為だった。 なんとか杖を拾い、再び二人の方へ視線を向けると、またしてもコルベールの首筋を見えない手が掴んでいた。 「君に言っても仕方ないかもしれないが、最期に一つ言わせてくれ。 これ以上、殺し合いに慣れるな。死に慣れるな。わたしのようにならないでくれ」 「…お前それは冗談のつもりか?オレみたいなヤツに言う事じゃあねーぞ」 「まぁいいさ。君たちの世界を見てみたかったんだがな…」 そう言ってコルベールが目を閉じると同時に、見事に重なる二つの声。 「やめてぇぇぇ」 「やめろぉぉぉ」 キュルケと今まで黙っていたアニエスが同時に叫んだが、もう遅い。 何時もと変わらない声のプロシュートが一言だけ言った。 「アリーヴェデルチ(さよならだ)」 スタンドパワー全開。 その瞬間、コルベールの身体に無数のシワが刻まれ朽ち果てていき、その場に崩れ落ち 近寄ったタバサがコルベールの手を取ると雪風の二つ名と同じような冷たい声で告げる。 「死んだ」 炎蛇のコルベール――死亡 ようやく日の光が出てきたが、その場で声を出す者は一人も居ない。 広場にコルベールが枯れ木のように朽ち果て倒れているのだから当然だ。 そんな重苦しい中、何かに気付いたアニエスがやっと口を開いた。 「お前が…貴様が、あのグラモン元帥の子息を決闘で討ち滅ぼしたという悪魔憑きか…」 「よく知ってんじゃあねぇか。ま…確かにこいつは…悪魔かもしれないが」 人によっては悪霊とも言うだろうが、中には己に害をもたらすスタンドも珍しくないだけに、ある意味間違ってはいない。 「何故だ…何故殺した!」 「あ?オメーの手間省いてやったんだろうが。感謝しろよ」 「違う!二十年だ!二十年をもこの日を待っていた…それを貴様が!」 「そうか?ならどうしてあの時すぐに殺らなかったんだよ」 殺ろうと思えば、あの場で殺れたはずだ。 その事を指摘されアニエスが戸惑う。 「それは……仇とはいえ、わたしの身代わりになろうしたからだ……!」 「ハッ!そんな半端な気で殺ろうとすんじゃあねぇ。迷いながら殺るなんぞ、まだ殺らない方がマシだぜ」 心に迷いがあるという事は、その覚悟が出来ていないという事だ。 つまり、今のアニエスにコルベールを殺す資格などは無い。 「なら、どうすれば良かった…どうすれば…!」 「知るか。そのぐらい自分で考えろ。オレとあのハゲからの宿題だ。次、会う時までぐらいには答え見つけとけよ」 「…クソ。負傷者の手当てを…悪いがしばらく一人にしてくれ…」 近くに居た銃士にそう告げると、力無くアニエスが歩き出し、その姿を消した。 他の銃士の姿も見えなくなると、息を吐く。 「ったく…どいつもこいつも…」 今にして思うと、チームのヤツらが懐かしく思える。 よくもまぁ、ああも似た連中が集まった…いや、似た連中だから暗殺チームになったのかと思っていると コルベールの上に覆い重なるようにして、キュルケが泣いていた。 「どうしてこんな……」 どうしてこうなったのか全く以って理解できない。 コルベールを殺ろしたプロシュートも、死を受け入れたコルベールも、そしてあの時邪魔したタバサの事も。 パシ! それもこれも、自分のせいだ。自分が不用意な行動を取らなければ、もう少しマシな結果になったかもしれない。 そう思うと余計に泣けてきた。 ピシ ふとコルベールの指に嵌った燃えるようなルビーを見つけると、ある決意が浮かび上がる。 ガシ 何時もの『微熱』の二つ名を持つ自分ならどうするか。 グッ 決まっている。情熱と破壊という火の本領に基き行動する。 つまり、プロシュートへの攻撃の再開。敵わなくても一矢報いたいという想いで顔を上げたのだが… グッ もの凄い無表情でプロシュートとタバサが手を合わせていた。 「で、何時からだよ」 傍から聞くと何のこっちゃ分からないだろうが、意訳すると「何時からオレに気付いた」という事だ。 「夜の街道」 「マジか?あの暗さだぞ」 「シルフィードを甘く見ない」 ウェールズを追った時の夜。つまり、大分前から知っていたという事にはさすがに驚きを隠せない。 「それでよくオレの事他のヤツに言わなかったな」 「人には事情がある」 「大したタマだよ…オメーも。それにしても、何も言ってないのによく気付いたな。礼を言うぜ」 「普段言わないからすぐ分かった」 コルベールが死んだというのに、一仕事終えたかのような感じでそんな会話をする二人と さっきまでの危険極まりない雰囲気とのギャップに力が抜けかけたが、振り絞るかのようにしてキュルケが叫んだ。 「な、何よ!あなたたち!コルベール先生が死んだっていうのに、よくもそんな風にしていられるわね!」 そのシャウトにキュルケの方を向いた二人だが、揃って『何言ってんの?この人』というような顔をしている。 「タバサもタバサよ!あの時あなたが邪魔したおかげで先生が…!雪風を微熱で溶かしてあげれたかと思ってたけど全然違ってたのね!」 「おい、アレはまさかとは思うが素か?」 「多分そう」 二人揃って呆れ気味だが、この状況で気付ける者が居る方が珍しいだろう。 「大体、揃って手なんか合わせたりして!ミスタが死んだのがそんなに嬉しいの!?見損なったわ!」 いい加減五月蝿いと思ったのか、普通にタバサが一言だけ短く言った。 「死んでない」 「ええそうよ!自分で確認したんでしょうから……って、え?」 「だから死んでない」 ザ・ワールド そんな声と共にキュルケだけの時間が止まる。それでも、何とか理解しようとしたが、まだいま一つ理解できていないようだ。 「……つまり?」 「見れば分かる」 そう言って指差した方向を見ると、さっきまで枯れ木のようだったコルベールが元に戻っている。 さすがに、ここまで生き残った髪の毛は丈夫なようで抜け落ちてはいない。 慌ててコルベールの元に駆け寄り、手首を取ったが温度と脈の動きが確かにある。 「生きてる……」 「報酬も出ねーのに殺るかよ。誰が好き好んでそんな割りに合わねぇ事するか」 それこそはき捨てるかのように言ったが、今度はキュルケに疑問が浮かんできた。 「で、でもあの時死んだって言ったじゃない!それにあの雰囲気…!」 確かに、恐ろしいまでの冷徹な殺意がキュルケとコルベールを襲っていたのだから当然だが その問いに答えたのはタバサだ。 「普段言わない事を言った」 その言葉を聞いてさっきの事を思い出す。この男が普段絶対言わないような事。 必死になって記憶を探ると、一つ引っかかる言葉があった。 『……いっその事、ここで死ね。なに、オレに殺られるのも、そいつに殺られるのも大して違いはねぇ。この際だ、オレがブッ殺しといてやる』 『この際だ、オレがブッ殺しといてやる』 『ブッ殺しといてやる』 「あ……」 「彼は殺すなんて使ったりしない」 「よく分かってるじゃあねーか。マジで何モンだ。それに比べてなんだ!?オメーのあのザマは!?」 本気であれば、そんな事思った時点で行動が終わっている。 どっちか気付くかと思ったのだが、やはり気付いたのはタバサの方だ。 「今までのは演技?だとしたら劇場で主役張れるわね…」 「そうでもない。殴ったのも言った事もありゃ本気だ。ついでに言えば、お前に向けた殺気も本物だぜ」 気が抜けたのか、頭を押さえながらそう聞いてきたが、続いてプロシュートが言った事に動きが止まる。 「……もしもよ?もしも、あのままタバサが止めなかったらどうなってたの?」 腫れ物に触るように恐る恐る聞いてきたが、聞かれた方は当然のように答えた。 「お前がそこに転がってるに決まってるだろ。具体的に言うなら、全身シワだらけになって、無数のシミとかも出来てる。 自慢のスタイルも崩れてるし、場合によっちゃあ歯や髪も抜け落ちてるな。そこまで酷いと解除しても元には戻らないかもしれねぇ。 なにせ、直を叩き込んだ相手の殆どは殺っちまってるからオレも分からん。まだ他に聞きたいか?ああ、そういや背骨とかも…」 「いえ…もう結構よ……」 もう限界。これ以上聞いたら欝になる。至極普通に言っているだけ余計恐ろしい。 そんなわけでまだまだ続きそうな説明を即座に断ると、キュルケが半分泣きながらタバサに抱きついた。 「タバサ~~あなたってばホント良い娘ね。一個どころか、十個ぐらいの貸しよ、これ」 タバサに抱き付き頬ずりまでせんばかりのキュルケだったが、老化を免れたのだからそれも当然というべきか。 「オメー、そんな老化すんのが嫌か」 「当然よ!」 即答というのはまさにこの事。間髪入れずに返してきたが、人の能力全否定されただけに少々ムカつかないでもない。 「まぁいい…それより、そいつどっかに隠せ。あいつに見られたら洒落にもなんねー」 折角面倒な三文芝居までかましたのにバレては洒落にならんとして指示を出したが、どうやらまだ納得がいってないようだ。 「でも、どうしてそんな回りくどい事を?簡単に止められたんじゃ」 「別に、本気で殺るなら止めやしなかったがな。あの場で殴って止めても、そいつが追われる事には変わりねぇ。 だからいっその事、死んだようにして、あいつに時間やって考えさせるしかねぇだろ。どいつもこいつも半端なくせに面倒なヤローばっかだよ」 本当に、ロクに覚悟の意味も理解できてないような連中ばかりだ。 ただ、最近少しだが思うようになった事がある。 今までこそ、似たような連中に囲まれていたため気にも留めていなかったが、本来は自分たちのような連中が圧倒的少数派なのだと。 まぁ、今更進む道を変える事もできないだろうし、変える気も無い。 そうしていると、妙にニヤついた顔でキュルケがこちらを覗き込んでいる。 「……何だ」 「やっぱり、そういうとこ変わってない。普段無愛想なのに、意外な所で面倒見がいいところとかが特に」 何せ、ペッシがミスタに撃たれた時に、老化していたとはいえわざわざ出て行ったという実績がある。 ミスタをおびき寄せるためというのもあったが、あの時はまだブチャラティチームの情報は略歴と顔写真ぐらいしか知らなかった。 もし、ミスタが自分らと同じ、目的の為には一般人をも巻き込むのを躊躇しないタイプなら、かなり危なかったといえる。 それを承知で出て行ったというだけに、返す言葉があまりない。 それでも反論する余地があるのは長年の経験だろうか。 「勘違いすんな。そんな気なんぞ毛頭ねぇ。そのハゲにはまだ利用価値があると思っただけで他は何もねぇ」 「ルイズと一緒のとこあるのねー。やっぱり似た者同士だったってとこかしら」 「どこがだよ…あんなのと一緒にすんな」 「結構似てる」 遂にタバサまで要らん事を言い出してきたので話を変える。というか、本来話している暇など無いのだが。 「オメーまで言うか。マジ勘弁しろ。それより、こいつをどうにかしてくれると有難いんだが」 見せたのは、余波で良い具合に焼けた左腕。こんな状態で普通に話をしていたのだから、相変わらずの精神力といえる。 それこそ、治るのであるのならば、腕や脚の一、二本を自ら切り落とす事ぐらい躊躇はしない。そういう意味ではジョルノのG・エクスペリエンスは反則だ。 「魔法ってのアテにしてなけりゃあ、あんなもんできねぇ芸当だ」 早く治せよ。という感じで腕を出したが、何かこうキュルケが言いにくそうにしている。 「……そうしたいとこなんだけど、戦争で学院の秘薬も徴収されたみたいで残ってないのよ」 「何?……つまり無理って事か?」 「ん~、怪我の程度にもよるけど精神力を削って治すって事もできるわ。でも、ねぇ…」 辺りを見たが、どうやらマジにコルベールを殺ったと思われたようで人が居ない。 「仕方ねぇ…適当なヤツ見つけるしかないようだな」 逃げてー!水のメイジ逃げてー! この目は間違いなく、脅してでも治させるという感じの目だ。 火の系統で良かったと思う反面、これから巻き起こる交渉という名の恐喝を想像して犠牲者の為に目を閉じたが、誰かがこっちに近付いてきた。 よりによって水のラインのモンモランシーである。 「おう、オメー確か水だったな」 「いや、でもちょっと無理なんじゃ…」 能力的にではなく、ギーシュを殺ったという関係的に無理があると判断したが、返ってきた言葉は意外だった。 「腕出して」 「あら…見ない間にそういう関係になってたの?」 「違うわよ。皆と先生を助けてくれた借りは返す。それだけの事!終わったら覚悟しときなさいよ」 「さっきテンパってたヤツはどこのどいつだ。来るのは何時でも構わねぇが、手加減なんぞしないからな」 「……はぁ。なんでこんなのに決闘なんて挑んだのかしら、あの馬鹿。ほら腕」 言われたままに腕を出すと、モンモランシーが呪文を唱え始めた。 一応、また何か盛られたら洒落にもならんので何時でも直に移行できる体制には入っていたが、どうやらそれは無用になりそうだ。 しばらくすると終わったようで、手を動かしてみる。 多少痛みはあるが、動くようになっただけ良好だ。 「いつか絶対……参ったって言わせるんだ……から…覚悟しとき…なさ…い……」 やはり秘薬無しに治癒を使うのは無理があるようで、絶え絶えにそう言うと、モンモランシーが地面に向け倒れた。 「よ…っと。こいつも軽いな…飯食ってんのか?」 地面にぶつかるスレスレの所で力の抜けた身体をキャッチする。 全く、面倒なヤツに目ぇ付けられたもんだ。 「おら、そいつがノビている間にジジイの所行くぜ」 こいつをここに放置したままというのも何なので、どこかに運ぶ事にしたのだが それを見たキュルケが一々要らん事を言ってくる。 戦闘直後なので説教する気にもなれない。こいつも面倒なヤツだ。本当に面倒な連中ばかりだ。だが…… 面倒だという事が大半を占めるが、『この温い雰囲気もそう悪くは無い』という気が自覚しないまでも僅かだが湧き上がっていた。 ←To be continued 戻る< 目次 続く
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相手の船が貨物船に近接し、相手の船員が乗り込んでくる。 「空賊だ!抵抗するな!…おや、貴族の客まで乗せてるのか」 ルイズたちを下品に舐めるように見る。 「こりゃあ別嬪だ、どうだい、俺らの船で皿洗いでもやらねえか?」 男は下品に笑う。 「下がりなさい、下郎」 「驚いた、下郎ときたもんだ!」 男は大きくのけぞって笑う。 「おいてめえら、こいつらも運びな、身代金もたんまり貰えるだろうさ」 数人の男が無言で武器を奪い取り、船倉に押し込まれる。 「やれやれ、空賊に襲われるとはついてないな」 ワルドが呟く。 貨物船の船員たちと一緒に狭い部屋に詰め込まれた一行。 「急いでるのに…」 貨物船の船長がガハハと笑う。 「おい、娘ちゃんたち、あんたらも急ぎなのかい?」 「ええ、そうよ」 「だとよ、野郎ども。このバカな空賊どもは俺らの船に乗り込んだつもりらしいが…」 船長は口の中から工具を吐き出し、右手の義手を器用に外す。その義手の中から拳銃が出てくる。 「俺らをわざわざ案内して乗り込まれたってことを教えてやろうじゃねーか!」 船員が歓声をあげる。 一行はポカンと口をあける。 ダービーはトランプをいじって、特に興味は示していない。 船員が工具を受け取り、扉の鍵をこじ開けようとすると、ワムウが横に立ち、扉を蹴り飛ばす。 「な、貴様ら何を…」 ワムウが頭部に一撃を加え、見張りの男二人は一瞬で床に沈む。 「兄さんもやるねえ!」 船員が笑い、倒れた見張りの男の道具を拾い上げる。 「野郎ども!まずは武器庫を襲うぞ!この型の軍船ならおそらく甲板の直下部あたりにあるはずだ!」 船長が船員を率いて、走り出す。 ワムウたちもそれに続く。 「脱走だァーーッ!奴らの脱走だ!」 脱走に気づいた空賊員が叫び、直後に船長に撃たれる。 走りながらワムウが船長に尋ねる。 「船長室はどこだ?」 「なんでそんなこと尋ねるんでい、お兄さん?たぶんそこの階段をあがって大広間を片っ端から探せば見つかると思うが」 「頭を潰してくるのが手っ取り早いだろう」 ワムウは進路を変え、階段を上がっていく。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよワムウッ!」 ルイズが追いかけようとするがワルドが制する。 「君は杖も無い、足手まといになるだけだ。彼なら空賊くらい敵じゃあないはずだ」 ワルドはスピードを元に戻し、ルイズの手を引きながら船長を追いかける。 船員は武器庫とプレートのある部屋の扉を蹴破る。 中に居る空賊は驚いて銃を向けるが、その引き金を引くよりも早く銃弾が空賊の肩を貫く。 「野郎ども、杖と武器を片っ端から集めろ!」 船長は銃で撃たれた空賊の襟首をつかみ、拘束しようとして相手の顔をまじまじとみる。 「お、おめー…アルビオンの兵士になったんじゃねーのか!シャチ!」 「…ってことは…貴方たちは王党派なのね?」 船長の息子であったその兵士は空賊に扮した王党派だということを話し、彼らは一息つく。 が、ルイズだけは一息をつけなかった。 わなわなと震え、その兵士に詰め寄る。 「あの筋肉バカを止めてこないとッ!船長室はどこなの!?」 「え、えっとここが地下ですから…階段を二つあがったフロアの奥に居るはずです」 「わかったわ、ありがとうね!」 ルイズは感謝の言葉もそこそこに、杖をひっつかんで部屋から駆け出す。 ルイズは船長室に行くまでにかなりの人間に会うことになり、一々説明することになると思ったのだがそんなことはなかった。 通路の兵士は倒れ、武器を折られ、呻き声を漏らし、積み上げられていた。 「何なんだあいつは…」 「助けてくれ…助けてくれ…化け物だ、畜生…」 「ザミエル…ザミエル…ザミエル…」 「落ち着いて素数を数えるんだ…」 日ごろの『教育』の成果かどうかはわからないが、とりあえず死者は見当たらなかった。 もっとも、ルイズはワムウが相手を見当たらないようにできることなどは百も承知であった。 おそらく船長室の真下に来たであろう、船の上からは叫び声が聞こえ、床が何度もきしむ。 「しょうがないわね、弁償代はワムウ持ちよ!」 ルイズは上に杖を振り上げ、船の天井を吹っ飛ばす。 いきなり大穴が空き驚いたのか、ワムウが上から覗き込んでくる。 「どうした、ルイズ」 「どうしたもこうしたもないわよ!その人たちは敵じゃないからやめなさい!」 ルイズの心からの叫びであった。 「ハハハ、間一髪助かったよ」 アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーは、気にしなかったように笑う。 「彼があと10人アルビオンにいたら、貴族派に負けていたことはなかっただろうね」 「ほ、本当にすみませんでした!」 ルイズが平謝りする。 「ほら、ワムウあんたも謝るのよ!」 「いや、いいんだ、試すためとはいえ、空賊などと名乗ったんだから反撃されるのは当然だ。 あの戦い振りは驚嘆に値するよ、君の使い魔だけでなく、君の父上もね」 皇太子は近衛兵であったシャチに声をかける。 「ま、誠にすみません!」 若い兵士は地面に手をつける。 「いいといっているんだ、それより君の傷は大丈夫かね?」 「はっ!数日のうちには完治すると思います!」 「そうか、では大事にな」 「失礼しました」 彼を見送った後、ウェールズはこちらに目を向ける。 「それで、トリステイン大使殿はどういったご用件かね?」 「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」 ワルドが頭を下げる。 「ふむ、それで君たちは?」 「僕はトリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵と申します。そしてこちらが 姫殿下より大使の大任をおおせつかった、ラ・ヴァリエール嬢とその使い魔、そして友人たちです」 「なるほど、してその密書とやらは?」 ルイズはポケットの裏側を切り裂き、縫いこんだ密書を取り出し、一礼してウェールズ皇太子に渡す。 皇太子は真剣な面持ちで手紙を読み進め、途中で顔を上げる。 「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い…従妹は」 ワルドが無言で頭を下げ肯定する。 皇太子は最後の一行まで丹念に読み終えると、こちらに微笑んだ。 「了解した。姫はある手紙を返して欲しいということなのだな、そのようにしよう。 しかしながら、今その手紙はニューカッスルの城にあるのだ。多少面倒だが、ニューカッスル城までご足労願いたい。 シャチ、『イーグル』号の案内を頼む」 『イーグル』号は大きく迂回し雲の中を慎重に抜けていく。 ウェールズは向かうべき城の正面から砲撃を行う巨大な船を忌々しげに見つめる。 「あれが貴族派の艦?」 ルイズはシャチに尋ねる。 「ええ、かつての我々のアルビオンズ第一艦隊旗艦、『ロイヤル・ソヴリン』号です。 もっとも、奴らは我々を最初に破った地、『レキシントン』号と呼んでいますがね」 「そう、あの艦の反乱から全てが始まった、我々にとっては悪夢のような艦さ。『レヴァイアサン』号も 『ドレッドノート』号も奪われ、『ヴィクトリー』号は大破。残った船はこの『イーグル』号だけさ」 ウェールズ皇太子が話に割り込んできた。 「この『イーグル』号ではあの艦と殴り合いなどはとうてい不可能さ、だからこうして空賊に扮してこそこそと 通商破壊をするしかなかった。もっとも焼け石に水だがね。だからこうして雲中を通り、 大陸下からニューカッスルに近づく。そこに我々しか知らない隠し港があるわけだ」 艦はアルビオン大陸の下に入り込み、光がささなくなる。 シャチによれば薄々大陸の下に我々の隠し港があることは気づいているということだが、 視界もない大陸の下で座礁や衝突、同士討ちや奇襲の危険を犯すことを考えているのか、 それともこの程度の艦が一隻あったところでどうということはないと考えているのか、あるいはその両方か。 兎にも角にも、この隠し港だけは攻撃を受けていないということであった。 暫くの航海の後、真上に直径三百メイルほどの穴が空いている場所にでる。 「一時停止」 「一時停止、アイ・サー」 「3ノントで上昇」 「3ノントで上昇、アイ・サー」 ほぼ同じ速度でアルビオン兵士が乗り込んでいる貨物船も追従する。 「まるで空賊ですな、殿下」 「まさに空賊なのだよ、子爵」 岸壁に接岸した艦からルイズ達は降りると、背の高い年老いたメイジが近づいてくる。 「ほほ、これはまた、大した成果ですな。殿下」 「喜べ、パリー。硫黄だ、硫黄!」 ウェールズの言葉に集まった兵士が歓声をあげる。 「おお、硫黄ですと!これで我々の名誉も守れるというものですな! 先の陛下よりお仕して六十年、こんな嬉しい日はありませぬぞ、殿下!」 泣き崩れならが笑う臣下にウェールズも応じて笑う。 「ああ、これで王家の誇りを叛徒どもに示しつつ、名誉の敗北をすることができるだろう」 「栄光ある敗北ですな、この老骨、久々に武者震いをいたしますぞ。して、ご報告なのですがその叛徒どもは 明日の正午に城攻めを開始するとの旨伝えてきました。殿下が間に合ってよかったですわい」 「そうか、間一髪とはこのことだな!」 一しきり笑いあったあと、パリーは一行に顔を向ける。 「して、その方たちは?」 「トリステインからの大使達だ。重要な用件で、王国にお見えになられたのだ」 パリーはなるほどといった顔つきで頷き、こちらに微笑む。 「これはこれは大使殿、私めは殿下の侍従を仰せつかっておりますパリーでございます。 遠路はるばるようこそ、このアルビオン王国へ。この有様で大したもてなしはできませぬが、 今夜ささやかな祝宴が催されますゆえ、ぜひとも出席くださいませ」 こうして、老メイジは頭を下げ、去っていった。 「では、ついて来たまえ、僕の部屋に案内しよう」 To be continued.
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9話 ルイズが朝食の席につくと、他の生徒はおもむろに一席分ルイズから間を開けた。 ルイズに対する嫌がらせというわけではない。 教師たちはそれを重々承知しているので、あえて何も言わなかった。 そしてルイズ自身もそれを教師たちから口を酸っぱくして言われていたので、何も言わなかった。 言わない代わりにため息一つついて、他の生徒たちと一緒に食事の前のお祈りを口にした。 ホワイトスネイクとギーシュが決闘した日から、もう一週間がたった。 ギーシュはすっかり元通りになって、モンモランシーとよりを戻そうと必死になっている。 ただ、ギーシュはルイズには近づこうとはしない。 常に一定の距離を保っており、そこから決してルイズに近づこうとしないのだ。 そうするのはギーシュだけではない。 他の生徒もルイズには近づこうとしなかったし、 加えてこれまでのようにルイズを「ゼロ」と呼んでバカにすることもなくなった。 無論、ホワイトスネイクのせいである。 ワルキューレを簡単にやっつけてしまったあの投げ技や身のこなしは多くの生徒が目にしていた。 その恐ろしい体術の餌食になるのが、みんな怖かったのだ。 ただ二つの例外として―― 「あら、ルイズ。今日は自分で起きられたのね」 ルイズがむっとして振り向くと、いつもの笑みを浮かべたキュルケと相変わらず無表情なタバサが立っていた。 決闘以後、ルイズの近くにいるのはキュルケとタバサだけだった。 「ふん、当然よ。わたしだってもう16歳なんだから、自分で起きるぐらいできるわよ」 そう言ってぷいと顔をそむけると、また食事を始める。 「ホワイトスネイク……だっけ? あなたの使い魔。彼、今日もいないのね」 そう言ってキュルケはわざとらしくため息をつく。 初めてホワイトスネイクを見て、そして決闘でワルキューレを次々と撃破していく ホワイトスネイクを見たときは「なんかちょっといいかも」とか思っていたキュルケだったが、 一週間も見ないうちにその熱はさっさと冷めて、今は絶好調五股掛けである。 「時代は筋肉質でタフな男よ!」とか思っていたのも、キュルケからすれば遥か昔の話。 女の子は熱しやすく冷めやすいと言われるが、キュルケはその中でもとびきりなのだ。 なのにホワイトスネイクに会えないことでため息をついたのは、 「ちょっとキュルケ! まだあんたあいつのことを狙ってたの!?」 ルイズがいちいち本気にするのが面白いからだ。 「ウソウソ、冗談よ。あなたってすぐに人の話を本気にするから飽きないわ」 「うぅ~~、そうやってあんたは人の事をバカにして!」 くすくす笑うキュルケと声をあげて怒るルイズ。 「好対照」 と、二人を見ていたタバサが評価した。 「ま、それはいいとして……ちょっとおかしくない? 召喚されて2日と立たないうちに使い魔が姿を見せなくなるなんて話、聞いたこともないわよ?」 キュルケの言うとおりだった。 ホワイトスネイクは決闘の日以来、一度もその姿を見せていないのだ。 「ルイズは使い魔に見限られたんじゃないか」と噂する生徒もちらほら出てきているくらいだ。 しかし、その噂は未だに噂の域を出たことはない。 ホワイトスネイクが「その場にいなくてもそこにいる」ことは、すでに多くの生徒たちに知られていたからだ。 ホワイトスネイクを「亡霊」だとか「悪霊」だとか呼ぶ生徒だって少なくはない。 だからホワイトスネイクがそばにいなくとも、ルイズはホワイトスネイクの主人であると暗黙のうちに認められていたのだ。 ホワイトスネイクが姿を見せなくなった本当の理由については、生徒たちは何も知らない。 「ルイズを呪い殺すための道具とか材料を集めている」とか、 「墓場を掘り返しては屍肉を食い漁っている」とかとんでもないデタラメを言っているばかりだ。 だがルイズは知っていた。 ホワイトスネイクはルイズ自身が本気でホワイトスネイクに立ち向かおうとしたときに現れる。 きっとそうだ、とルイズは「なんとなく」分かっていた。 根拠はない。 ただ、ホワイトスネイクは立ち向かってくる自分を無視したりはしないだろう。 ルイズはそれだけは、ただ「なんとなく」理解していた。 だから、立ち向かう。 決行は今夜。 今度はギーシュの魔法の才能は手元にない。 あるのは失敗魔法しか生み出せない「ゼロ」の才能だけ。 だとしても、立ち向かわないわけにはいかない。 あれだけの屈辱を受けて、言われたい放題言われて、それで黙っていられるほどルイズのプライドは安くない。 絶対に後悔させてやるんだから。 絶対に、やっつけてやるんだから! あの敗北から一週間、ずっとルイズはそう思い続けてきたのだ。 「ルイズ? 聞いてるの?」 「……え? なに?」 きょとんとして聞き返すルイズに、キュルケはため息をついた。 「だから、明日はフリッグの舞踏会でしょ? あんた踊る相手は決まってるの?」 「決まってないわよ」 即答するルイズ。 そんなこと考えてる余裕があったらホワイトスネイクに勝つ方法を考えた方がずっとマシだからだ。 「はぁ~……思ったとおりね。あんた、男っ気が全然無いものね」 「男の子を取っ換え引っ換えしてるあんたに言われたくないわ」 キュルケの言葉にむすっとしてルイズが返す。 「ま、あなたはそんなに美人じゃないからいいけど……タバサまで相手がいないのはどうなのよ?」 そう言ってタバサに声をかけるが、 「興味がない」 タバサの答えもルイズと似たようなものだった。 「……あなたたち、もうちょっと男との付き合いを考えた方がいいわよ。 タバサはかわいいからそのうち男の方から寄ってくるでしょうけど、 ルイズなんて、あんた将来貰ってくれる人がいなさそうじゃないの」 「な、なんですってえ!?」 「本当のことじゃない。怒りっぽくて、すぐ八つ当たりする。 あんたと一緒になったら神経すり減らしちゃうわよ」 「そ、そんな、こと……」 反論しかけたが、ルイズには思い当たるフシがありすぎた。 自分の父親は自分の母親と口論になったら絶対勝てないし、 二つ上の姉の婚約者はいつも姉にあれこれ指図されていて、 しかも会うたびにやつれているようだった。 父親はまだしも、姉の婚約者の方が離婚せずにいられるか、いや、結婚まで持つかどうかさえ怪しい。 自分は、どうだろうか……。 「なーんて、ね」 不意にキュルケが声を上げる。 「へ?」 「別にいいんじゃない? 踊る相手がいなくたって。 それに踊る相手がいないぐらいで将来どうこう、ってわけじゃないし」 「あ、あんた、またわたしをからかったのね!?」 キュルケの真意に気づいたルイズが顔を真っ赤にして怒る。 だがキュルケはお腹を抱えて大笑いすると、 「だから言ってるじゃない。あんたがすぐ本気にするから、それが面白くって!」 「もう、いい加減にしなさい! タバサも見てるばっかりじゃなくて何か言ってやりなさいよ」 話を振られたタバサは少し考えた後、 「いつも通り」 それだけ言ったのを聞いてキュルケはまた大笑いし、ルイズはまた声をあげて怒った。 まるでルイズが彼女二人以外に避けられ続けているのがウソのような、そんな光景だった。 時は三日前の夜にさかのぼる。 場所はトリスタニアの裏通り。 物騒な連中が物騒な仕事を求めて歩き回る、一般人が決して近づいてはならない場所。 そこでの、とある事件だ。 「な、なな、なんだ、お前は! いい、一体何しやがった!!」 ガタガタと震える傭兵の前には、すでに物言わぬ死体と化した彼の仲間が転がり、 そのさらに先に一人の男が立っている。 彼の仲間は、みんな穴ボコのチーズみたいに、全身に風穴をあけられて死んでいた。 彼の目の前に立つ一人の男がした「何か」によって、声を上げる間もなく死んだのだ。 そしてその男は、実に奇妙ないでたちをしていた。 頭には緑色の目出し帽とゴーグル、 そして羽織ったマントの下にはウロコのような模様が浮き出た全身ジャージを着ている。 もちろんハルケギニアにはジャージなんてものはないから、この男以外にはそれがジャージだとは分からない。 これだけでもホワイトスネイクとどっこいの奇妙すぎる格好だが、 取り分けて奇妙なのは、この男が靴を履かないで、その靴を靴紐で足首に結び付けていることだった。 「『何しやがった』と聞かれても……説明する意味がないな。 どうせお前らには……『見えない』だろうしな」 「な、何だと!」 「まあいい……それより、聞きたいことがある。 お前、誰に雇われた? 『同業者』に襲われるのはこれが初めてなんだ。 なるべく他の奴らがやりたがらない……ハードな『仕事』を選んでたのにな…」 「く、くそッ!」 傭兵が毒づいて逃げる。 「逃げるのか……行ってもいいぜ。ただし……」 ドンドンドンドンッ! 空気を切り裂いて飛来した無数の「何か」が傭兵の両足を蜂の巣にした。 「洗いざらい喋った後でならな」 傭兵が悲鳴をあげて倒れる。 男はそれにゆっくりと近づいた。 「なあ……教えてくれよ。一体誰に指図されたんだ?」 「し、知らねえよ!」 「そうか」 男はそれだけ言うと、 ドンドンドンッ! 今度は男の右腕を蜂の巣にした。 悲痛な呻き声が再び裏通りに響く。 「こっちは鉄クズが少ないからな……あんまり弾の無駄使いはしたくねーんだ。 だから……さっさと教えてくれるか?」 「し、知らねえ! 本当に知らねえんだ! 見たこともねえ女だった……この街の女じゃねえ! それだけは確かだ! そいつに500エキューで雇われたんだ! お前を殺して来いってな!」 「そうか」 ドグシャアッ! 「喋った後は、さっさと『あの世』に行ってきなよ」 男の意志で振り下ろされた見えない「何か」が、傭兵の頭蓋を粉々に粉砕した。 「しかし……面倒だな。 何で顔も知らねー上にこの街のヤツでもない女に狙われるんだ? 殺しすぎたのが……いけねーのか? 『仕事』中の俺を見た奴は全員殺ってるハズなんだがな……」 「別にお前は何も悪くはないよ」 一人呟く男に突然かけられた、艶のある声。 男は声のした方向に素早く目を向ける。 「何故ならそいつらを雇ったのはこの私だからね」 そこには、一人の女が立っていた。 「お前が……こいつらを差し向けたのか」 「その通り。『魔法殺し』と名高き傭兵の手腕、是非ともこの目で見ておきたくてね。 それで運のないそいつらに実験台になってもらったのさ」 女はフードを目深くかぶっており、その表情や顔立ちはうかがえない。 だが女の何かを楽しむような口調からは、恐怖や戸惑いは感じられない。 言葉通り、最初から死んでもらうつもりで傭兵たちを雇っていたようだ。 「そうか。……だがそれで、オレが納得すると……思うのか? 命を狙われて黙っているほど……オレは安くはないからな。 オレをナメてるんだったら……お前にもここで死んでもらう……!」 男の言葉と同時に、男の背後の「何か」がゆっくりと動いた。 「ふふふ……そう殺気立つんじゃないよ。 わたしはお前を雇うつもりでいるんだからね」 「……いくらでだ?」 男の発する殺気はまだ緩まない。 「2000エキュー、と言ったら?」 「2000エキューだと!?」 男の声色が変わる。 2000エキューと言ったら立派な家と森付きの庭が買えるぐらいの金額だ。 破格なんてもんじゃない。 あまりにも、馬鹿げている金額だ。 「どうやら態度が変わってきたようだね」 くすくす笑いながら女が言う。 「2000エキューか……2000エキュー……。 ……それで、一体なにをさせる気だ?」 「そんなに難しいことじゃないわ。子供を一人さらってくるだけよ」 「それで2000エキュー……だと?」 「ええ、何だったら前金で1000エキューあげてもいいわ」 「前金で、1000エキュー!?」 「どうする? この『仕事』……やるのか、やらないのか?」 「……まず、詳しい話を聞かせてもらおうか」 それが男なりの、1000エキュー、2000エキューを前にしての、精一杯の慎重さだった。 彼が感情だけで動く男だったなら、「仕事」の内容も確認せずにこの場で「仕事」を受けていただろう。 「なかなか利口で助かるわ。では明日のこの時刻に、またこの場所で落ち合いましょう。 詳しい話はそこで教えるわ」 「それでいい。だが……」 「だが、何?」 「あんたの名前を……まだ聞いていないな」 「おや、そう言えば名乗っていなかったね。すっかり忘れていたよ。 私はシェフィールド。 ではまた明日、いい返事を期待しているよ、『ラング・ラングラー』」 To Be Continued...